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第78回  2016年11月号

〜賃金プロットの活用方法について考える〜

はじめに

賃金プロットとは、標準的には横軸に年齢、縦軸に金額、従業員個々人を職位や資格別に記号化して、その賃金額の分布状況をグラフ化したものです。

〜 標準的な賃金プロットの例 〜

賃金プロットはパソコン用の表計算ソフトの「散布図」を使用すれば正確かつ迅速に作成することができます。また、自社の賃金の現状を一覧化し、問題点や改善の方向性を探るうえで有効な分析手法であるため、賃金制度を見直すにあたってはほぼ例外なく用いられているといってもよいでしょう。

そこで今回は、この賃金プロットを有効な分析手法として活用するための留意点について解説してみたいと思います。

目的志向で分析手法を選択することが重要

賃金プロットの標準的な活用方法は次の2つです。

世間水準と自社の賃金水準の比較
自社の賃金の運用傾向の把握

①については賃金プロット図の上に比較対象として選択した世間水準の賃金データを重ね合わせて、自社の賃金水準の現状把握を行います。

〜 例 〜

②については、例えば上の例でいえば、

・職位別の賃金となっており ・高職位=高賃金の運用が行われている ・職位間の賃金の逆転現象は見られない

などといった自社の賃金の運用傾向を把握することを指します。

このとき、①、②の分析を有効なものとするためには、

“明確な目的を持って世間水準、分析手法を選択する”

ことが必要です。

自社の賃金の現状について“何を知りたいのか?”によって、世間水準や分析手法の選択は異なってくる

ためです。以下例を使って説明します。

①について

例えば、成果主義賃金制度の下で賃金額が低いままの従業員が多数発生し、結婚して子供を持つということがそもそも不可能な水準になってはいないか?という問題意識を持っている会社があるとします。このような会社が“何を知りたいのか?”といえば、

・配偶者と例えば子供1人を扶養するのに必要な生活費がどれくらいで ・その生活費を下回っている従業員がどの年齢でどれくらいいて ・仮にその生活費まで必要と考えられる年齢層の従業員の賃金を引き上げた場合、必要な原資はどれくらいか?

ということです。従って、選択すべき世間水準は“生活費”ということになります。それ以外の例えばモデル賃金などとの比較を行ってもあまり意味はありません。

②について

例えば、昇給のルールなどの賃金制度が整備されておらず、過去どのような考え方で昇給運用を行ってきたのか?確認したいという会社があるとします。このような会社では〜例〜で示したようなプロット図をいくら眺めても答えを導くことはできません。プロット図の標準的な構成要素そのものを変えて分析することが必要です。例えば、

・横軸を年齢ではなく“基本給の金額”に ・縦軸を賃金額ではなく“昇給額”に ・従業員個々人を職位や資格別ではなく“仕事内容別”に
資格

変えて分析してみると次のような結果が導き出されることがあります。

※必要に応じて過去3〜5年間程度遡って上記分析を行います。

このような結果が導き出された場合、この会社での過去の昇給運用の考え方は、

・従業員個々人が担当している仕事内容のレベルに応じた昇給運用が行われている・高いレベル=高昇給・ただし、基本給の金額が高くなるにつれて昇給額は徐々に低下していく
・高いレベルの仕事をしている人には早期に基本給の引き上げを図る・初級レベルの仕事にとどまる人についても基本給の引き下げは行わず、若干の昇給は行う

ということができます。

まとめ

賃金プロットを用いた分析は、賃金制度を見直すにあたってほぼ例外なく行われています。しかしそれだけにはっきりとした目的を持たずに、単に形式的なものにとどまっていないか?注意する必要があります。

自社の賃金の現状について“何を知りたいのか?”をはっきりと持って、それにふさわしい分析手法を選択することが必要です。
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