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第120回 2020年5月号

〜就業規則の見直しは3つの分野に分けて考える〜

はじめに

就業規則の見直しは実施範囲の確定、成果物の特定がむずかしい業務の一つです。就業規則の見直しは3つの分野に分けて考える必要があり、どこまで対応する必要があるのかによって実施しなければならない範囲が大きく変わってくるためです。

そこで今回は就業規則の見直しに含まれるこの3つの分野について取り上げてみたいと思います。

就業規則の見直しは3つの分野に分けて考える

就業規則の見直しに含まれる3つの分野とは次のとおりです。

最新の法令に適合しているかどうか?

実態との整合性はとれているかどうか?

前提となるしくみ、制度が合理的なものかどうか?

以下それぞれについて説明します。

最新の法令に適合しているかどうか?

就業規則というものは法令が改正される都度手を入れておかないとすぐに古くなってしまします。
ここ数年間の例を挙げても次の事項については就業規則の改定が必要です。

10日以上の年次有給休暇付与者に対するうち5日分の会社の時季指定義務

セクハラ、マタハラなどのハラスメント(嫌がらせ)についての事業主による防止措置義務の強化

5年を超えて有期労働契約を更新した場合の労働者の希望による期間の定めのない労働契約への転換

以上のほかにも育児・介護休業関係については多くの改正が行われています。

現状の就業規則が最新の法令に適合していない場合には適合するように該当箇所の規定を改定、追加する必要があります。

実態との整合性はとれているかどうか?

就業規則で「このようにしてください」というルールを定めていても、現場の都合に引きずられてそのルールが守られずに就業規則の条文が空文化してしまっている場合があります。
また、会社としてはその時その時の必要性に応じて善意で対処してきたつもりであっても、結果として公平性を欠く手当の支給が行われているケースもあります。
前者の例としては「勤務シフトの従業員への通知時期が遅い、守られていない」などがあります。また、1ヵ月単位の変形労働時間制を導入している場合に月の途中で会社に都合のよいように勤務シフトの変更を行って法令上求められる割増賃金の支給を行わないような場合も該当します。
後者の例としては「特定地域の人だけに住宅手当が支給されているが賃金規程には一切記載がない」「支給条件が賃金規程に記載されていない手当が入社時期によって支給されたり、支給されなかったりしている」というようなものがあります。
以上のような場合については実態のほうに合わせて就業規則を改定することが原則となります。ただし、法令に適合していることが大前提となりますので、労働時間管理のしくみや賃金制度そのものが実態に合った、合理的なものかどうかの再検討から行うことが必要な場合も出てきます。

前提となるしくみ、制度が合理的なものかどうか?

就業規則には労働基準法の規定によって記載しなければならない事項が定められています(労働基準法89条)。ただし、労働基準法をはじめとする法令に抵触しない限り、労働時間管理のしくみや賃金制度をどのようなものにするかについてはそれぞれの会社の判断に任されています。
就業規則とはこのようにそれぞれの会社が自社の実態に合わせて合理的に選択、構築したしくみや制度を条文化したものにすぎません。条文化の前提となるしくみや制度が合理的なものかどうかの検討や、よりよいものに見直していくことは就業規則の“作成”とは本来別の業務です。

就業規則の見直しの正しい順序

このように考えると、就業規則の見直しの正しい順序は次のとおりとなります。

実態との整合性はとれているかどうか?

自社の就業規則と実態とを比較し、不整合が起きていないかどうかを点検します。
法令に適合していない実態があれば現場の都合、使い勝手にできる限り応えつつ、法令も守ることができるしくみの方向性を検討します。
また、従業員の理解を得ることがむずかしいような(そのまま公開することができないような)待遇が行われていないかどうかの点検も行います。

前提となるしくみ、制度が合理的なものかどうか?

就業規則という“形式”に“条文化”する前に、それぞれのしくみや制度を自社の実態に合った、合理的なものに整えます。

最新の法令に適合しているかどうか?

就業規則という“形式”に“条文化”するのは最後です。
このときに最新の法令に照らして古くなっている部分があれば条文の改定、追加などを行います。

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