事例解説

ホーム > 事例解説 > 第49回 2014年6月号

第49回  2014年6月号

〜資格と職位の関係について考える〜

はじめに

「資格」とは給与に代表される社員の処遇の高さを示す区分のことを指します。「等級」と呼ぶ会社もあります。「職位」とは仕事をしていくうえでの役割分担のことを指し、部長、課長、係長、一般社員といった呼称を使用している会社が多く見られます。

職能資格制度に代表される従来の人事制度においては、資格と職位を分離するという考え方が一般的でした。しかし、近年は職務(仕事)や役割(職位)に応じた処遇を行うことが望ましいとの考えの下、資格と職位を分離しない人事制度も多くの会社で導入されるようになっています。

そこで今回は、従来の人事制度が資格と職位を分離してきた意義を考察するとともに、資格と職位の関係の今後の望ましいあり方について考えてみたいと思います。

従来の人事制度が資格と職位を分離してきた意義

この点については2つの意義があるものと考えます。

1つ目は、異動・配置のしやすさです。仕事内容や役割分担が変わっても資格に変更はありませんから、社員の処遇が大きく変動することはなく、その時点で最適と考えられる組織編成、社員の配置を行うことが可能となります。
2つ目は、社員のやる気の維持と最適な組織の維持が両立可能となることです。職位を上げなくても資格を上げることによって社員の処遇を上げることができますから、社員の処遇のためにムダな職位を作ったり、組織をいじる必要がなくなります。

このように、従来の人事制度は社員のやる気を維持しつつ、最適な組織のあり方を壊さないための工夫として、資格と職位を分離してきた、ととらえることができます。これは中長期的な雇用を前提とする場合には優れた考え方であると言えます。本来は短期的な雇用が前提のパート・アルバイトの処遇のあり方との違いを比べてみればこのことは明らかです。パート・アルバイトの場合には仕事内容を具体的に特定して、時給○○○円、と募集、雇用するのが一般的です。その仕事が必要な期間だけの雇用を前提としているからです。一方、社員のように中長期的な雇用を前提とする場合には、3年先・5年先にどのような仕事をしてもらうかはその時点になってみなければわかりません。資格と職位を分離することによって、処遇の大きな変動を伴わずに、その時点で最適と考えられる仕事を担当してもらうことが可能となるのです。

従来の人事制度およびその修正の反省点

このように、従来の人事制度は社員のやる気を維持しつつ、最適な組織のあり方を壊さないための工夫として、資格と職位を分離してきた、ととらえることができます。この考え方に立てば、本来は

社員の処遇…資格 と 最適な組織…職位(仕事)

とが緩やかに連動していることが望ましいと言えます。会社は事業の遂行を目的とした組織です。社員の処遇も事業の遂行への貢献度(仕事)と切り離して考えることはできません。しかし、従来の人事制度では社員の処遇に傾斜しすぎた設計、運用が行われてきたというのも事実です。最上位の資格に在籍していながら一般社員であるといった制度が以前は現実に存在していました。この点は大きな反省点と言えるでしょう。

上記の反省点をふまえ、90年代後半以降多くの会社が従来の人事制度の修正に取り組みました。<はじめに>でも述べた、職務(仕事)や役割(職位)に応じた処遇を行うことが望ましいとの考えの下、資格と職位を分離しない人事制度などもその一つです。しかし、これらの修正は、職務(仕事)や役割(職位)に応じた処遇を行うという点に傾斜しすぎていたということは否めないでしょう。中長期の雇用を前提とする限り、社員のやる気を維持し、意欲をいかに引き出し、能力を発揮してもらうか、という視点は欠くことができません。異動や配置によって給与が大幅に低下する、それを避けるために最適な組織編成、配置ができない、社員の処遇を上げるために不要な職位を設置する、といった事態が現実に起こってしまいました。

資格と職位の関係の今後の望ましいあり方

中長期の雇用を前提とする場合、3年先・5年先にどのような仕事をしてもらうかはその時点になってみなければわかりません。資格と職位を分離することによって、処遇の大きな変動を伴わずに、その時点で最適と考えられる仕事を担当してもらうことが可能となります。ただし、資格と職位は緩やかに連動している必要があります。最上位の資格に在籍していながら一般社員であるといった従来の制度を繰り返してはいけません。社員のやる気を維持しつつ、最適な組織のあり方を壊さないための工夫として、資格と職位を緩やかに連動させることが今後の望ましいあり方と言えるでしょう。

テーマ別索引
ページの先頭に戻る

企業文化研究所 〒162-0822 東京都新宿区下宮比町2-28 飯田橋ハイタウン206号室 TEL.03-6265-0805