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第21回  2012年2月号

制度の高度化の具体例(その1)

はじめに

今回は前月号の中で触れた「制度の高度化」の具体例について解説します。「制度の高度化」とは“制度を複雑にする”“難しくする”ということではありません。運用に携わる人が“より簡単に”“楽に”意思決定できるように制度を整えることです。
具体例の題材としては“人事考課(評価)表の設計”を取り上げます。2つのポイントがありますので、今回と次回の2回に分けて詳しく解説することとします。

高度化が必要な人事考課(評価)表の典型例

もしみなさんの会社で次のような人事考課(評価)表を現在でも使用しているようであれば、早急に高度化を検討した方がよいでしょう。

人事考課(評価)表

15〜20年前までは上記のような考課(評価)表が主流でした。考課(評価)による昇給や賞与の差は極めて小さいものでしたし、経済全体が右肩上がりでしたので、どのようなことを社員に期待しているのかを具体的に打ち出さなくても特段の支障は生じなかったためです。このような状況の下では考課(評価)ランクごとの具体的な判断基準や総合考課(評価)ランクの決定を各考課(評価)者の裁量に委ねても、長期的に見れば大きな問題が起こることは少なかったと言えます。
しかし、現在は売り上げが毎年伸びていくことを前提とした制度は無理があります。限られた昇給や賞与の原資を効果的に配分するうえでは考課(評価)による格差は拡大する必然性があります。また、どのようなことを社員に期待するのかを具体的に、スピーディーに社員に対して伝えていくことが必須です。このような状況変化を考えますと、考課(評価)ランクごとの具体的な判断基準や総合考課(評価)ランクの決定を各考課(評価)者の裁量に委ねることは適切ではありません。
今回は上述した2つのポイントのうち、ポイント2について解説を行い、ポイント1については次回触れることとします。

総合考課(評価)ランクごとの得点範囲の定め方

みなさんの会社で「総合考課(評価)ランクごとの得点範囲は定められているものの、どうも結果が甘い(辛い)ような気がする」ということはないでしょうか?もしそうである場合には“得点範囲の計算方法に問題あり”ということになります。典型的にはただ単純に「Sは90点以上、Aは80点以上、Bは60点以上…」というように感覚的に決めているような場合が該当します。
考課(評価)表は通常上述した典型例のように
・各考課(評価)項目ごとの満点数(上述した典型例ではSの点数)が異なる
・従ってSだけでなくA、B、C、(D)の点数も項目ごとに異なる
のが一般的です。理由は重視したい項目ほど満点数(Sの点数)を高く設定するため、結果としてA、B、C、(D)の点数も高くなるためです。このような場合にただ単純に「Sは90点以上、Aは80点以上、Bは60点以上…」というように感覚的に得点範囲を決めますと、「どうも結果が甘い(辛い)ような気がする」ということになるのです。個々の考課(評価)項目はオールBなのに、総合考課(評価)はAになる、あるいはCになる、というケースを目にすることも少なくありません。これらを一つひとつ点検して最終調整していては制度を作って運用している意味がありません。
ではどうすればこのような状態を改善することができるのか、順を追って解説します。

ステップ1:総合考課(評価)ランクごとの“ボーダーライン”のポリシーを決める

例えば、総合考課(評価)でBをとるためには、全部で10個ある考課(評価)項目のうち、満点数(Sの点数)が高い方から“最低Bが6個、残り4個もC”、というように、ギリギリ総合考課(評価)をBとしてもよい場合を決めていきます。同じように、総合考課(評価)でAをとるためには、“最低Aが2個、残り8個はすべてB”、総合考課(評価)でCは、“最低Cが6個、残り4個がDまで”、というように“ボーダーライン”のポリシーを決めていくのです。

この“ボーダーライン”のポリシーを正しく決めてさえいれば「どうも結果が甘い(辛い)ような気がする」ということは起きないのです。

ただし、現実の考課(評価)では考課(評価)項目ごとに様々な考課(評価)ランクの組み合わせが考えられますので、上記“ボーダーライン”のポリシーの組み合わせの場合だけに単純化して考えることはできません。そこで次のステップ2の検証作業が必要となります。

ステップ2:現実に起こりうる考課(評価)項目ごとの考課(評価)ランクの組み合わせのパターンをできるだけ多く想定して検証してみる

ステップ1の“ボーダーライン”のポリシーに従って合計得点を計算しますと、総合考課(評価)ランクごとの得点範囲が定まります。ただし、これはまだ仮のものであり、上述したように“ボーダーライン”のポリシーの組み合わせ以外にも現実に起こりうる考課(評価)項目ごとの考課(評価)ランクの組み合わせのパターンをいくつか想定して、総合考課(評価)の結果が「どうも甘い(辛い)ような気がする」ということが起こらないか検証することが必要です。この検証作業はできるだけ多くのパターンについて行っておくことが望ましく、多くのパターンについて検証すればするほど後から問題が起こるリスクは低下します。

ステップ3:ステップ2の検証作業の結果問題がある場合には前に戻って作業をやり直す

ステップ2の検証作業の結果、総合考課(評価)の結果が「どうも甘い(辛い)ような気がする」場合には、次の点を調整したうえで再度ステップ2以降の作業をやり直します。
・各考課(評価)項目ごとの満点数(Sの点数)の見直し
・各考課(評価)項目ごとの満点数(Sの点数)は変えないでA、B、C、Dの点数を見直す
納得できる結果が得られたら作業は完了です。

なお、総合考課(評価)ランクごとの得点範囲をオープンにしていますと、
・先に総合考課(評価)のランクを決めてしまってからその得点範囲内に収まるように個々の考課(評価)項目の評価をする
・個々の考課(評価)項目の評価をしてから合計得点を出してみたら自分の想定していた総合考課(評価)ランクにはならなかったので、後から個々の考課(評価)項目の評価をいじってつじつま合わせをする
といったことも起こりえます。得点範囲をオープンにしていてもこのようなことが起きない会社もありますが、問題が想定されたり、現実に起きている場合には非公開とするなどの対応も必要でしょう。

まとめ

今回は前月号で触れた「制度の高度化」の具体例を“人事考課(評価)表の設計”を題材にして解説しました。制度を高度化するための作業プロセスはやや負担が大きいかもしれません。しかし、制度を高度化することによって運用に携わる人が“より簡単に”“楽に”意思決定できるようになることを本稿から感じ取っていただければ幸いです。制度を高度化することは決して“制度を複雑にする”“難しくする”ということではないのです。

次回は本稿で触れたポイント1について詳しく解説します。ご期待ください。

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