かつて日本には標準となる人事制度が存在していました。職能資格制度です。従来の性別、学歴、勤続年数を基準とする年功序列型の人事制度に代わって、一気に日本標準の位置づけを獲得していきました。「習熟による能力の向上度合いに応じて処遇を高めていく」という職能資格制度は、人材育成を重視する日本企業の方針に照らして合理的なものであり、急速に普及していったものと考えられます。
従って、職能資格制度が日本標準であった90年代半ばまでは、人事制度といえば職能資格制度があたりまえであり、個々の企業において人事制度を改める場合も職能資格制度を自社に適合するようにカスタマイズして「導入」することが当然のプロセスでした。
上記のとおり職能資格制度は人材育成を重視したしくみであり、この点は2015年の現在においても多くの企業において十分当てはまるものであると考えられます。しかし、職能資格制度が日本標準であった90年代半ばまでと2015年の現在とでは、次の点において大きな差異があるものと考えられます。
90年代半ばまでの日本標準であった職能資格制度は上記の点に対応できるものではありませんでした。「自社の独自性、強みを発揮した行動」の中身は個別化することが必然です。どの企業にも当てはまるような「標準」というものはそもそも存在しません。このような状況下では人事制度は必然的に各社各様に個別化していきます。
従って、現在においては、かつての職能資格制度のようにあらかじめ体系化されたしくみを自社に適合するようにカスタマイズして「導入」する、という人事制度改定のプロセスはそもそも成り立ちません。「自社の独自性、強みを発揮した行動」は自社の基本戦略から導かれるものです。また、人事制度は自社の人事上の課題解決に資するものであることも必要です。自社の「基本戦略」と「人事上の課題」を起点とした人事制度は個別化することが必然であり、人事制度は「導入」から「開発」のプロセスへと変質していることをはっきりと認識する必要があるものと考えます。具体的な「開発」プロセスの詳細は2015年2月号・3月号・4月号・5月号を、「開発」事例の紹介は2010年7月号・8月号・9月号・10月号をご覧ください。
社員に自社の独自性、強みを発揮した行動とは何なのかをよく理解してもらい、日常業務を通じてその実践をすること。今人事制度に求められているのはこの状況をつくり出すことです。この自社の「基本戦略」と「人事上の課題」を起点とした人事制度は個別化することが必然であり、人事制度改定のプロセスはすでにある標準の「導入」から自社独自のしくみの「開発」へと変質していることをはっきりと認識する必要があるものと考えます。