賞与とは異なり、月例給与については会社の業績や経済情勢にかかわりなく、常に最も効果的・効率的な支給の方法を追求するべきです。高い利益を上げている場合でも意味のないもの、必要性の低いものまで支給する必要はありません。
月例給与の効果的・効率的な支給を実現するうえでまず最初に検討する必要があるのは、「各給与項目の支給の目的ははっきりしているかどうか、またその支給の目的は合理的なものかどうか」ということです。「何のために支給しているのか、目的をはっきりと説明できない」給与項目や、「支給の必要性を合理的に説明できない」給与項目をこの先もずっと支給するくらいであれば、その原資を他に振り向けた方が賢明なことは明らかです。
そこで今月から2回に渡っては「基本給と手当の役割分担について考える」と題しまして、月例給与の効果的・効率的な支給を実現するための大前提について解説します。
よろしくお願いいたします。
「基本給」とはここではいわゆる本俸、基礎的賃金のことを指し、呼称は企業によって様々なものです。労働の対価として必ず支給しなければならないものであり、この「基本給」だけを支給することとしても特段問題はありません。
交通費実費、いわゆる通勤手当はほとんど全ての企業が支給していると考えられますが、これを「支給しない」とする就業規則(給与規程)や雇用契約も有効です。
なお、本稿ではいわゆる「残業手当」等は対象外とします。
「基本給」は人事処遇の基準と連動させるのが基本です。
すなわち、
という関係です。
みなさんの会社で、もし上記の考え方だけで「不十分な点はない」「社員の給与処遇は十分」ならば、“別途手当をどうするか?”という検討は要りません。
しかし、実際には、
などに対応するために、各種の「手当」を支給している会社が多いというのが実態です。
以上のように考えますと、「手当」とは基本給だけでは反映させることができない“特別な目的”を反映させる給与項目、すなわち基本給を“補う”ものととらえることができます。
従って、ある手当を今後も存続させるべきかどうかの判断は、
で決定することとなります。
「扶養手当」「家族手当」「住居手当」「家賃補給金」などが代表例として上げられます。
「扶養手当」「家族手当」は今後も存続させるべきかどうか最も判断に迷うもの、ということができます。一度みなさんの会社の賃金水準を都道府県の人事委員会が発表している「標準生計費」と比較してみてください。
なお、比較は人事委員会が発表している「標準生計費」の数字を税金や社会保険料の負担分だけ割増して行ってください。詳細は後日に譲りますが、おおむね人事委員会が発表している「標準生計費」×1.28により妥当な比較が行えます。
単身者、2人世帯、3人世帯…と社員の世帯構成、扶養家族の有無も様々でしょうが、もし「基本給」だけでも大体の場合が3人世帯や4人世帯の生計費をクリアーできる見込みが立つ場合、「扶養手当」「家族手当」を今後も存続させる必然性はない、ということになります。ただし、この点については「少子化対策に企業としても取り組む」といった別の視点から手当を存続させる、という対応もありうるでしょう。
「住宅手当」「家賃補給金」については、都市部に居住する若年層を採用するのであれば必要性が高いでしょう。住居費の負担分まで考慮して基本給の水準を設定すれば著しく高額となることは明らかであり、親元通勤者等住居費の負担がない層にまで過大な給与支給を行うことにつながり、合理的ではありません。なお、「住居手当」「家賃補給金」に代えて社宅や寮を用意するといった対処も考えられます。
「役職手当」「特殊勤務手当」などが代表例として上げられます。
「役職手当」は人事処遇の基準が1本であり、資格や等級と職位が一体であれば基本給の中に吸収してしまうことを原則とするべきです。資格や等級と職位が一体でない、すなわち同じ資格や等級であっても職位が異なる(ライン職とスタッフ職のちがいを含む)場合には「役職手当」を設定する合理性があります。
「特殊勤務手当」とは、ここでは「仕事内容や勤務形態によって給与に格差を設定しないとかえって不公平」という場合に支給される手当すべてを含みます。病院勤務者に対する「遺体の対応を行った場合に支給される手当」や、工場勤務者に対する「三交替勤務を行った場合に支給される手当」など、その内容は非常に多様です。「特殊勤務手当」の存廃については、「それらの仕事や勤務が当然のものであり、そもそも基本給の中に含まれているものと考えるべきかどうか」で判断することとなります。
先に述べた「住居手当」「家賃補給金」のほかに、「単身赴任手当」「別居手当」などが代表例として上げられます。ここでは「単身赴任手当」「別居手当」について検討します。
同居の家族を有する社員が単身赴任をすれば世帯数は1つから2つに変わります。これによって生活に要する経費は増大することとなります。
単身赴任先の住居費を別途会社が負担する(社宅・寮の提供を含む)かどうか、単身赴任前の住居(家族の住居)への月1回程度の帰宅に要する交通費を別途支給するかどうかにもよりますが、これらを考慮しても上記生活費の上昇分を著しく上回るような「単身赴任手当」「別居手当」の支給は合理性に疑問があるといえるでしょう。単身赴任に伴う“つらさ”という要素も考えられますが、家族帯同で赴任する社員には手当の支給はありません。手当を支給するのは社員の私生活上の“特別の事情”を考慮して、「世帯が1つから2つになることによる生活費の増大分を会社が負担する」ということですので、“つらさ”を考慮すべきなのは転勤が少ない会社の場合などに限定されるでしょう。
「資格手当」が代表例です。
能力・成果主義の人事制度への移行が進む中で「資格を活かして成果を上げなければ給与は支払うべきではない」という考え方が主流となり、また“一時金方式”を採った方が結果として会社の負担を抑えられるなどの理由から、「資格手当」を支給する会社は少数となっているのが現状でしょう。みなさんの会社でも全く同じ考え方であれば「資格手当」の支給は必要ありません。しかし、「業務に有益な資格の取得を特に奨励したい」と本気でお考えの場合には、「資格手当」を支給することをおすすめします。“一時金”として数万円から10万円程度の支給が受けられるだけでは資格取得に要する費用や時間的労力等を考えた場合、インセンティブとしての効果は極めて薄いことは明らかです。最近数年間を振り返って一時金の支給対象者がほとんど“ゼロ”、という場合には、今後も社員が本気になって資格取得に取り組むことは期待薄です。実際にIT業界などでは資格の保有者数が取引上有利となることもあり、「資格手当」を復活させたり、対象資格の拡大、支給金額の引き上げなどを行う動きが見られます。
「限られた給与原資を効果的・効率的に使いたい」というのは経営者であれば皆同じです。また、現在の経済情勢下では給与や賞与のカットなど、一律に社員にも痛みをお願いせざるを得ない場合もあるでしょう。成果主義人事の導入による実質的な給与の引き下げも同様です。
しかし、そもそも自社の給与体系そのものの中にムダが潜んではいないでしょうか?「基本給と手当の役割分担」を正しくとらえ、一つひとつ検証していくことによりかなりの原資が捻出できることもあるのです。
次回は、今回触れた各種「手当」の廃止や金額の引き下げなどを行う場合の対応方法等について解説します。
よろしくお願いいたします。