人事制度には社員の処遇を全社共通のしくみに従って公平に決めることができるという機能があります。また、人事考課の基準にはどのような考え方や行動が正しく、また正しくないのかを判断する規範としての機能があります。自社の理念や基本戦略を実現するための人材育成機能ともいうことができます。これらの機能を提供する人事制度、人事考課の基準は会社経営の土台として必須のものですが、時としてそれらの運用に当たる幹部人材から“行き過ぎた制度化”の要求が出てくることもあります。
そこで今回は、どのような場合が“行き過ぎた制度化”の要求に該当するのか?反対にどの程度まで制度化することが適切といえるのか?について考えてみたいと思います。
上述のとおり、人事制度には社員の処遇を全社共通のしくみに従って公平に決めることができるという機能があります。従って、人事制度は全社員(従業員)を対象としたものであることが原則です。しかし、人事制度という全社共通のしくみではなく、対象者個々人ごとに個別に処遇を決定しても適切な結論が導ける場合もあります。例えば、仕事内容や責任などが社員とは明らかに異なるパート従業員がごく少数在籍している場合に、パート従業員を対象とした人事制度は必要といえるでしょうか?また、(正)社員であっても本人の能力や健康状態などから他の社員とは仕事内容や責任が明らかに異なる職務に従事させざるをえないような場合、その人だけの制度が必要でしょうか?これらの場合については制度化すること自体は可能ですが、その必要性は極めて小さく、個々人ごとに個別に処遇を決定しても適切な結論が導けると考えられます。処遇決定のプロセス、結論が合理的に説明できるものであり、「全社共通の人事制度に従って処遇を決定する」といった趣旨の規定が存在しなければ法的な問題が生じることもありません。従って、上述したような場合についての制度化の要求は“行き過ぎた制度化”の要求に該当するものと考えられます。
また、上述のとおり人事考課の基準にはどのような考え方や行動が正しく、また正しくないのかを判断する規範としての機能があります。従って、人事考課の基準はその内容からどのような考え方や行動が正しく、また正しくないのかが明確に読み取れるものでなければなりません。しかし、個別具体的な事例を当てはめた場合の正しい、正しくないの結論を全部列記するようなことは不可能ですし、またそのような試みは幹部人材の判断力、部下教育能力を逆に低下させてしまいます。従って、そのような試みの要求は“行き過ぎた制度化”の要求に該当するものと考えられます。