前月号では人事制度の本当の目的(会社が目指すことの実現)について解説を行いました。人事制度の3本柱のうちの人事考課(評価)制度についてもその本来の目的を見失い、評価のための評価に陥ってしまっている事例が多く見受けられます。
そこで今回はこれら評価のための評価に陥ってしまっている事例と、そうならないための評価制度のあり方について考えてみたいと思います。
評価のための評価に陥ってしまっている事例のうち代表的なものを3つ挙げると次のとおりです。これらはすべてあいまいな評価基準を補完するために設定されたルールということができます。
従来型の職能資格制度では、評価は次のとおり4つの島から構成されます。
上記のとおりそれぞれの島にはさらに評価の項目が設定されており、これら評価の項目を「S」「A」「B」「C」「D」…というように1つひとつ評価していくしくみとなっています。
島のルールとは、このとき「1つの評価の判断材料(部下のある行動)については1つの島からは1つの評価の項目しか選択してはいけないルール」のことを指します。例えば営業成績が良かったという事実について、
それぞれ1つずつ選択することはできても、さらに
選択してはいけないというルールです。
なぜこのようなルールが作られているのかですが、評価の項目・基準があいまいであるため、1つの島の中からいくつでも評価の項目を選択できることにしてしまうと、ハロー効果という評価のエラー(誤り)を引き起こすこととなり、これを避けるために必要であるためです。なお、ハロー効果とは、何か1つ良いことや悪いことがあった場合に他のすべても良く見えたり、悪く見えるという評価のエラー(誤り)のことです。
島のルールの中身は上記のとおりですが、人間のある行動を多面的に評価してはいけないという考え方の方が不自然であり、まさに評価のための評価に陥ってしまっているということができます。正すべきはあいまいな評価の項目・基準の方であり、あいまいな評価基準を補完するためのルールとは決別するべきです。
評価対象期間を通じた評価とは、例えば前年10月1日〜当年3月31日までの評価対象期間のすべてを通じた評価を行い、対象期間のうちの一部のみ(例えば3月中のみなど)に偏った評価を行ってはいけないルールのことを指します。このことは一般的には適切な考え方であるといえますが、仕事の遂行レベルを問うような評価の項目については妥当な結論とはならない場合もあります。例えば次のような場合です。
上記のような場合には「評価対象期間を通じた評価」にこだわらず、「高」の評価を与えた方が本人の意欲や今後の成長にとってもプラスになるものと考えます。「評価対象期間を通じた評価」も①島のルールで示したようなあいまいな評価基準であれば具体的な評価の判断材料をより多く集めるために必要なルールであったといえます。しかし、これも正すべきはあいまいな評価基準の方であり、評価の内容次第では必ずしもこだわらない方が妥当な結論となる場合もあります。そのような場合にも「評価対象期間を通じた評価」にこだわると、まさに評価のための評価に陥ってしまいます。
正しい評価をするためには部下の行動を正しく把握することが必要です。従って、正しい評価をするために部下の行動をこまめに記録しておくことも間違いではありません。しかし、大切なのは記録よりも指導です。いくら部下の行動をこまめに記録して正しい評価を行ったとしても、フィードバックの段階になってはじめて「あそこが悪かった」「ここをこうしてほしい」と説明しても、部下は「なぜそのときすぐに言ってくれなかったんですか?」と思います。こまめな記録と指導のどちらが評価の納得性を高め、また部下の成長にとってプラスとなるかは明らかです。行動記録の徹底もあいまいま評価基準を補完するためには有効な手段であったといえますが、目指すべきは日常指導のよりどころとなるようにあいまいな評価基準を改めることです。このことなくしていかに部下を納得させる評価の判断材料を集めるかに注力することはまさに評価のための評価に陥っているといえるでしょう。
以上のように評価のための評価はあいまいな評価基準を補完しようとして引き起こされるものであるということができます。あいまいな評価基準を前提にしたままで「研修で評価者の目線を合わせてほしい」といった相談を受けることもありますが、結論は「ものさしなくして評価なし」です。自社の評価基準があいまいかどうかの判別法ですが、部下の立場に立ってみて「正しい自己評価ができるかどうか」という視点で判断してみてください。正し自己評価ができるという確信が持てるものであれば改める必要はありません。「無理だ」と思うものであれば評価基準を改めることから始める必要があります。具体的な評価基準作成のポイントについては2010年11月号で詳述していますので、ご覧ください。