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第74回  2016年7月号

〜雇用形態と「階級」は違う〜

はじめに

「同じ仕事をしていれば同じ賃金を支払うべきである」とする同一労働同一賃金の実現に向けて国が指針づくりや法改正に取り組むこととなりました。また、定年後再雇用者の賃金減額について会社側に厳しい判断が下された裁判例などもあってか、雇用の形態ごとの処遇水準の格差について「自分の会社は大丈夫か?」と心配する相談が増えてきました。回答は賃金をはじめとする処遇水準を決定するものさしを間違えていないかどうかによって大きく異なります。

そこで今回は、この賃金をはじめとする処遇水準を決定するものさしについて、多くの会社が陥りがちな(あるいは陥っている)間違いについて解説してみたいと思います。

雇用形態と「階級」は違う

雇用形態とは、正社員、契約社員、パート、アルバイト、嘱託社員といったものが典型ですが、雇用契約の期間の定めがあるかないか、仕事の範囲や勤務地が特定されているかいないか、労働時間の長さの違いなど、雇用契約の内容の違いに着目して従業員を区分したもので、その種類に法律上の制限はなく、会社ごとに多様なものが存在します。これに対して、ここでいう「階級」とは、賃金をはじめとする処遇水準の高さを決める段階=ものさしのことを指します。賃金は仕事の対価です。従って、階級には仕事や責任の重さ、将来への期待の違いといったものを用いるのが本来の姿ということになります。このように考えますと、雇用形態と階級とは必ずしも一致するものではありません。<はじめに>で述べた多くの会社が陥りがちな(あるいは陥っている)間違いとは、雇用形態=階級とし、処遇水準決定のものさしとしてしまうところから生じるものです。次のとおりです。

仕事や責任の重さ、将来への期待が事実上同じであってもコストを抑えられるからという理由で処遇水準が低い雇用形態=階級で採用してしまう。またこのときには雇用調整がしやすいからという判断も働く。→ 上記のような運用が長期間継続し、固定化してしまうことで雇用形態ごとの処遇水準の格差を合理的に=仕事や責任の重さ、将来への期待の違いに基づいて、説明できなくなる。

正社員中心だった時代には雇用形態が違えば仕事や責任の重さ、将来への期待といったものも当然違っていたため、雇用形態=階級としても問題が生じるようなことはありませんでした。しかし、この「雇用形態が違えば仕事や責任の重さ、将来への期待といったものも当然違う」という大事な前提を崩した運用をすれば問題が生じないはずはありません。

「雇用形態が違えば仕事や責任の重さ、将来への期待といったものも当然違う」という大事な前提が崩れてしまっているにもかかわらず、雇用形態=階級、それで問題なし、という意識のみ残ってしまっていることが間違いを生じさせている原因である

ということができます。

まとめ

「契約社員だから」「パート、アルバイトだから」「嘱託社員だから」という理由だけで正社員よりも低い処遇水準とすることは法律上現在でもすることはできません。そのことは労働契約法20条、パートタイム労働法8条、9条に定められています。国が今後取り組む同一労働同一賃金実現に向けての指針づくりや法改正とは、これら法違反となる事例の明確化や法の規制強化を目指すものです。

賃金をはじめとする処遇水準の高さを決める「階級」として雇用形態を使うことはすでに時代遅れとなっているのです。
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