経営者、特に創業者がコンサルタントの導入を考えるきっかけの一つとして、"世代交代"を上げることができます。強い会社を次世代へ引き継ぐうえで「しくみの整備」や「幹部の育成」は必須条件であり、これらの事項を自分自身の最後の責任としてお考えの結果だと思います。
中でも「幹部の育成」「社員教育」に対するニーズは高く、世代交代を迎える会社のほぼすべてが直面する課題と言ってもよいでしょう。
そこで今回は世代交代をスムーズに進める必須条件である「幹部の育成」について考えます。
よろしくお願いします。
「幹部の育成」を成功させるためには、次の3つの事項をしっかりと行うことが最低限必要です。
6月号でも詳述しましたが、会社の運営を引き継いでいくうえで「今の幹部(あるいはその候補者)に何がもの足りないのか」を“明確”かつ“具体的に”絞り込むことがまず必要です。
この点は経営管理に関する一般的知識のように各社共通のものから、各社の事業特性・戦略固有のものまで多様にわたりますので、“気づいた都度追記していく”といった工夫が必要でしょう。例えば「主要取引先との交渉の仕方や人脈が何より重要」といった会社の場合には、これらの事項も重要課題として必須のものとなります。また、「外部に対する情報発信能力が幹部には不可欠」といった会社の場合には、この能力の習得も重要課題となります。これらの特定の個人に大きく依存してきた事項も必ずバトンタッチが必要となる時がくるのです。準備期間は長いほど成功確率は高まります(理由は後述します)。
1で明らかとなった課題をクリアーするうえで最低限必要な知識は伝授することが必要です。
「幹部」といっても、いざ会社の運営を引き継いでいくことを想定した場合には知識に偏りがあることが通常です。すべてに通じている必要はありませんし、またそのようなことは不可能ですが、会社をスムーズに運営していくために最低限必要なことがらは身につけておく必要があります。このことは経営管理に関する一般的知識についても当てはまります。例えば、今ではパートタイマーやアルバイトとして入社してくる人達も条件さえ満たせば有給休暇が取れることは知っています。みなさんの会社の管理者の方々はこれらのことに対して自信を持った対処ができるでしょうか?管理者であっても「自分の会社の就業規則の内容すら詳しくは知らない」ということも少なくありません。
部門によって異なること、経営管理に関する一般的知識ともに「最低限教えるべきことは1回は教えておく」といった対処が必要です。
“装備”とは、各部門を引き継ぐ幹部が業務を遂行していくうえで必要なフォーマット(書式)のことです。
「幹部ともあろう者がマニュアルに頼らなければ仕事ができないのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もし、今の幹部(あるいはその候補者)の仕事の仕方に満足されているのであればこの“装備”は不要です。むしろすでに会社の運営を引き継ぐ幹部が育っている、と判断されます。しかし、もし今の幹部(あるいはその候補者)の仕事の仕方にもの足りなさを感じるのであればこの“装備”を整備して与えることをお勧めします。仕事に限らず、趣味やスポーツ、習い事などにも当てはまることですが、最初は先生の“形”を真似るところから始めるのが普通の人です。幹部としての資質を持っている人であれば3〜5年の内には必ず「先生の“形”」を破って、自分独自のやり方を編み出します。逆に言えば3〜5年経っても「先生の“形”」から抜け出せない人は少なくともその部門を引き継ぐ幹部としての資質はない、ということです。もっと適した部門や仕事に異動させて活躍してもらうことを選択した方が会社・本人の双方にとって幸せということになります。
1で「準備期間は長いほど成功確率は高まる」と述べた理由はここにあり、育てれば全員が育つなどということはあり得ないのです。会社の次世代を委ねられる人材の割合がどれくらいかを考えれば「時間はない」というのがむしろ通常です。
なお、最初にも述べさせていただいたとおり、上記3つの事項は“最低限必要”なことです。今会社の屋台骨を背負っている現役の幹部と仕事を共にする体験や、いわゆる“修羅場”をくぐり抜ける中で培われる能力はかけがえのないものであることは言うまでもありません。しかし、これらの体験や“修羅場”だけで会社の次世代を委ねられる幹部が育つというケースはむしろ少ないでしょう。なぜなら、それが可能となるのは「明確に意図はしなかったものの、上記3つの事項を日常業務の中で自然と実践してきた場合に限られる」ためです。「幹部の育成」に限らず、社員教育は計画的に実行することが大切です。詳しくは5月号・6月号を参照してください。
創業者とともに会社を育ててきた“第一世代”の人たちはかけがえのない財産ですが、商品やサービスと同じように変わっていくことは避けられません。会社の次世代を委ねられる人材の育成は優先度が極めて高い先行投資といえるでしょう。
次回は人事企画の機能について解説します。
よろしくお願いします。