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第66回  2015年11月号

〜自社の処遇方針を再確認する〜

はじめに

社員の処遇は、究極的には給与と昇格・昇進の2つにまとめることができます。この2つのあり方を自社の処遇方針に合わせて設定することが人材の有効活用の出発点となります。

そこで今回は、給与と昇格・昇進について自社の処遇方針に合致した設定が行われているかどうか?再確認する方法について解説してみたいと思います。

給与についての処遇方針

給与、とりわけ基本給をどのような考え方で支給するのかについては、次の3つに大別することができるものと考えます。

①職務給=仕事に応じて決まる給与/②職能給=仕事をする能力に応じて決まる給与/③年齢給=年齢に応じて決まる給与
職務給 職能給

職務給は仕事に応じて決まる給与ですので、仕事の対価、報酬としての色彩が鮮明となります。仕事が変われば基本給額も変わりますし、各人の過去の経験や将来への期待といったものは考慮されません。

まず「仕事」があり、その仕事に合致した人材を当てはめていく、というのが基本思想です。

従って、中長期の雇用を前提として人材を育成していくというよりも、仕事に必要な人材をその都度調達していくという考え方であり、短期雇用(必要な更新を含む)に馴染むものであるということができます。

職能給は仕事をする能力に応じて決まる給与ですので、人材として育成、活用していくという考え方が鮮明となります。各人の今の基本給額は過去の経験や実績に基づくものであり、その金額に見合った仕事をしてもらうためにどのような仕事をしてもらうことが最適か?ということを考えることになります。

まず「人」があり、その人に合致した仕事を当てはめていく、というのが基本思想です。

従って、中長期の雇用を前提として柔軟に異動や配置を行っていくという考え方に馴染むものであるということができます。

③年齢給は年齢に応じて決まる給与ですので、生計費(生活費)保障としての色彩が鮮明となります。

新卒者をはじめとする若年層を採用して人材として育成していくという場合、この年齢給の考え方は何らかの形で採り入れる必要があります。

新卒者などの初任給には「相場」があり、この相場と30歳前後のモデルといわれる生計費との間には大きな落差があります。それを毎年ほぼ自動的に埋めていくしくみが必要となるためです。

さて、あなたの会社の基本給は①、②、③のどれに該当する(もしくは最も近い)ものですか?そしてその基本給の考え方、基本思想は自社の処遇方針に合致していますか?なお、若年層、中堅層、幹部クラスといった階層ごとに処遇方針が異なる場合には、階層ごとに確認してみてください。

昇格・昇進についての処遇方針

昇格・昇進については従来は「全社員単一コースの中での選別」であったといえます。総合職、一般職といったコース別の人事管理も行われていましたが、これらは「入り口での振り分け」に主な目的があり、将来会社の中核となることを期待する人材はすべて総合職として迎え入れて、その中で昇格・昇進を通じて選別していくという考え方であることに変わりはありませんでした。

ところが現在では「全社員単一コース」ではなくなっているといえる事例が多数出てきています。例えば…

・会社の基本戦略に照らした重要度に応じて職種によってコースを区分している例
・小売業などの業種において販売員と店舗責任者とで階層を明確に区分し、コース別の人事管理を行っている例
・勤務地や職務変更の範囲によってコースを区分している例(いわゆる限定正社員制度)

などは「全社員単一コースの中での選別」ではありません。業種や会社の規模にもよりますが、全社員単一コースであることを前提として昇格・昇進をどのような方針に基づいて行うべきか?という考え方のみでは社員の処遇を適正に決めることができない場合も多々あるものと考えられます。このような場合には、「コースの設定の仕方」というものがもう一つの重要な判断要素となるものといってよいでしょう。

「全社員の処遇を単一の枠組みの中では考えられない」場合には、従来の総合職、一般職とは違ったコース別の昇格・昇進、処遇というものを導入すべきです。

まとめ

給与体系を自社の処遇方針と合致したものとするためには、処遇方針の再確認→給与体系のあり方の選択の順序で行うことが大切です。処遇方針の再確認を行うことなしに、給与制度の比較検討のみで給与体系のあり方を選択している例もよく目にしますが、大抵は失敗しています。

昇格・昇進については、「全社員の処遇を単一の枠組みの中で考えることができるかどうか」をまず問うてみる必要があります。「考えられない」場合には、従来の総合職、一般職とは違ったコース別の昇格・昇進、処遇というものを導入すべきです。

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