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第7回  2010年12月号

〜目標管理制度について考える〜

はじめに

目標管理制度は多数の企業において採用されているしくみですが、有効に機能している例はあまり目にしたことがありません。

そもそも制度やしくみといったものは目的を実現するための“手段、道具”にすぎません。「使い勝手が悪い」場合には“道具に手を加える”か“違う道具”を使うべきです。

そこで今回はこの「目標管理制度」について考えてみたいと思います。
よろしくお願いいたします。

目標管理制度の本来のねらいとあるべき姿

目標管理制度の“ねらい”に関する一般的な説明は「人事用語解説」にしておりますので、ここでは的を絞って解説することとします。

ねらい:会社が目標として掲げた事項(経営計画、数値目標など)を、個々人の職務に下ろしてその実現を図ること。
従って“あるべき姿”は
あるべき姿:上位から下位へと計画、目標がつながっていること=“目標の連鎖”が重要ポイント。

この“ねらい”と“あるべき姿”を実現、可能とする前提は次のとおり整理することができます。

1.下位者が上位者の計画、目標を見て「自分は何をすればよいのか」がわかること。
2.上位者が下位者の計画、目標を正しく設定できるだけの力量を備えていること。
3.計画、目標を設定する時点で期末までの業務内容が少なくとも7割〜8割程度は展望できていること。
→※業種を問わず
・所要期間2、3ヵ月の短期案件を
・期近に受注していく
ような会社の場合、数値目標以外の計画はあまり緻密にやっても意味がありません。

また、次のような場合には、半年や1年に1回体力と時間をかけてまで目標管理制度を運用していく意義は薄いといえるのではないでしょうか。

4.数値目標以外の新規の計画事項について社員(従業員)がかかわる部分が少ない会社
→中堅・中小企業においては多いというのが実態です。
5.結局毎回「書く内容が同じ」となる部門や職種
→製造現場等においてよく見受けられます。
6.補助的業務に従事する社員や仕事内容が特定業務に限定されている社員
→いわゆる“一般職”や“職人さん(技能職)”などが該当します。

以上の点から考えますと、“目標管理制度が有効に機能する条件”とは次の3つに整理できるものと考えます。

目標管理制度が有効に機能する条件
1.制度の運用に携わる管理者層の目標設定能力が高いこと。
2.計画、目標を設定する時点で期末までの業務内容が7・8割は展望できること。
3.通常の人事考課(評価)基準による考課に加えて目標管理制度を実施する意義があること。

上記のうちの一つでも欠くものがある場合には、現在の目標管理制度を“補強して運用する”か、“異なる制度に切り換える”ことを検討するべきでしょう。

具体例

それでは具体的にどのような“補強”や“異なる制度”がありうるのか、考えてみたいと思います。

制度の運用に携わる管理者層の目標設定能力が発展段階にある場合

「研修を通じて能力を高める」といってもすぐにできるようになるわけではありません。しかも問題は“会社の計画、目標の実現”という経営活動の根幹にかかわる事項、さらには“個々の社員の処遇決定”にもかかわる事項ですので、「のんびり待つ」ということもできません。
そこで“補強”のあり方としては次の対策を行うことが妥当ではないでしょうか。

目標設定するべき「柱となる事項」をあらかじめ目標設定シートの中に入れ込んでおく

目標設定がなぜできないのかというと、

・上位者から何を具体的に期待されているのかがわからない
・下位者に対して具体的にどのような目標を指示したらよいのかがわからない

ためです。
「何を自分自身の目標とすべきなのか」「部下に対してどのような目標を立てさせるべきなのか」について、「柱となる事項」が指針として示されていれば、ぐんとやりやすくなることは確実です。
なお、この「柱となる事項」は各部門・職層に期待される“機能”から考えれば比較的容易に導くことができます。

計画、目標を設定する時点で期末までの業務内容が半分程度までしか展望できない場合

この状況では“期初に設定した計画事項の達成度を期末に評価する”こと自体にあまり大きい意義がなく、“異なる制度に切り換える”ことが必要です。
期初の段階で具体的業務内容が読みきれないといっても、各部門・職層ごとに“どのような取り組みをすべきなのか”というベクトルは当然存在します。従って、このような場合の制度のあり方としては次のような形態が妥当ではないでしょうか。

・各部門・職層ごとに“どのような取り組みをすべきなのか”というベクトルのみあらかじめ設定、明示する
・個々の社員は“期末に”上記ベクトルに照らして“実績”を申告する

もちろん通常の人事考課(評価)基準による考課のみとすることも考えられます。どちらが妥当なのかは評価のしやすさや納得感、個々の社員の自発的な行動を強く期待するのかどうか、といった観点などから判断すべきでしょう。

まとめ

目標管理制度は現在ではほぼすべての企業が導入しているといっても過言ではありません。しかし、それが有効に機能しているケースは意外に少ない、というのが実態です。
「目標の数値化・定量化」や「難易度調整のしくみの整備」などといったことだけでなく、“この制度をどのように自社の経営活動の中に活かしていくべきなのか”という視点からの再検討が必要なのではないでしょうか。

次回は「人事考課(評価)の基準を通じて仕事の“型”を示す」を解説します。
よろしくお願いいたします。

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