本稿でいう職務開発とは、会社組織の中である部門(○○部、○○課など)のある職位(ポスト。肩書なしの人を含む)に就いた人に「どのような仕事をしてもらうのか?」を定義していくこと、を指します。この職務開発は 1.組織改革、2.中高年社員の有効活用、3.法的疑念の回避といった局面で今日ますます重要性を増していると考えられます。
そこで今回は、上記3つの局面でなぜ職務開発が重要となるのかについて解説してみたいと思います。
今日では経営者(社長)自らがリーダーシップを発揮して、自社の強みをさらに強化するための組織改革、海外を含む新たな市場を開拓するための組織改革を行う事例が非常に多くなってきました。改革後の組織が実際に機能して目的を実現するためには、そこで働く社員に対して「どのような仕事をしてもらうのか?」を明確に定義し、指針を示すことが必要です。これはトップサポートの一つとして人事部門が担当する仕事といえるでしょう。しかし、人事部門の企画機能が弱い場合、この仕事を担当する人は誰もいません。結果として、社長が改革の方針を示してもその実現を支える人がいませんので、「改革後の組織が有効に機能しない」「弊害の方が目立つ」といった事態を招いてしまうことになるのです。
現在では社員の定年年齢を定める場合、60歳を下回ることは法律上許されていません(高年齢者雇用安定法8条)。しかし、かつて55歳定年があたりまえだった時代のなごりが現在でも存在しています。「役職定年制」などはその代表例といえるでしょう。役職定年制とは、例えば「55歳になったら部長や課長といった部門管理者のポストからは一律に退いてもらう(ただし社員としての雇用は継続する)」というものです。中高年の部門管理者の人数が多く、若手を登用していくためには有効な施策であることもありますが、役職定年後に「どのような仕事をしてもらうのか?」は大事な問題です。先に「現在は社員の定年年齢は法律上60歳を下回ることはできない」と書きましたが、実際には法律では65歳までの雇用確保が義務づけられており(高年齢者雇用安定法9条)、仮に役職定年年齢が55歳の場合、役職定年後10年間「意義のある仕事をしてもらう」必要があるからです。また、日本全体の人口構成を考えても、若手社員を従来どおりの人数確保できるとは限りません。45歳、50歳、55歳を過ぎた社員に「どのような仕事をしてもらうのか?」は従来以上に人材の有効活用にとって大事な問題です。
2016年7月号でも詳しく解説していますが、「契約社員だから」「パート、アルバイトだから」「嘱託社員だから」という理由だけで正社員よりも低い処遇水準とすることは法律上現在でも禁止されています(労働契約法20条、パートタイム労働法8条、9条)。また、国は今後同一労働同一賃金実現に向けての指針づくりや法の規制強化に向けて取り組むとしており、雇用の形態ごとの処遇水準の違いを合理的に説明できるようにしておくことは今後ますます人事部門にとって重要な仕事となってきます。「合理的に説明できる」とは、現行の法律では処遇水準の違いを仕事や責任の重さ、将来への期待の違いといったものに基づいて説明できるということです。これは雇用の形態ごとに「どのような仕事をしてもらうのか?」を定義していくということです。
組織改革を成功に導く、持てる人材を有効に活用する、法的疑念を生じさせない雇用管理を行ううえで職務開発は今後ますます重要性を増してくることが確実です。職務開発は人事部門の企画機能の一つです。この企画機能をどれだけ発揮できるかによって会社の将来は大きく変わってくるものと考えます。