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第10回  2011年3月号

〜基本給と手当の役割分担について考える(その2)〜

はじめに

前月号では基本給と手当の役割分担を正しくとらえ、検証した結果、手当の廃止や金額の引き下げなどを実施すべき事例について解説を行いました。

今回は手当の廃止や金額の引き下げなどを行う場合の対応方法等について解説します。
よろしくお願いします。

手当の廃止・金額引き下げの具体的実施方法

まず最初にこの点について説明します。
基本的な方法は次の3つに整理することができます。

1.強制償却方式

一気に、もしくは3年間程度に渡って段階的に手当の金額を減額→廃止してしまう方法です。

最もシンプルですが、該当の社員にとっては痛みが大きい方法です。

2.調整手当方式

廃止・金額引き下げとなる部分を「調整手当」として別管理し、基本給の昇給額と相殺することにより徐々に償却していく方法です。

月例給与の総額が減ることはないため、社員に与えるデメリットは比較的小さい方法です。しかし、通常償却には数年間要することや、基本給が昇給する余地がない場合には手当の廃止・減額を行う意味が減殺されることとなります(今後廃止・減額対象となった手当が支給されなくなる・減額されるという点で全く意味がないわけではありません)。

3.基本給吸収方式

廃止・金額引き下げとなる部分を基本給に吸収してしまう方法です。

社員に与えるデメリットは基本的にありません。しかし、必要性や合理性がない手当を廃止したり、金額の減額を行う場合には基本的に用いるべきではありません。基本給に吸収することが合理的な場合にのみ採るべき方法といえます。詳細は前月号をご覧ください。

どの方法を選択するべきか

結論は、

どの方法が最も合理的かで判断する

ということに尽きます。
例えば、「社員本人よりも年収が高い配偶者に対しても扶養手当・家族手当が支給されている」(現実に存在するケースです。特に配偶者等の収入状況を毎年チェックしていない場合には要注意です)という場合には1の強制償却方式が最も合理的なのではないでしょうか。これに対して「基本給だけでも標準生計費をおおむねクリアーできるのだから扶養手当・家族手当は今後廃止したい」という場合には2の調整手当方式が合理的と考えられます。

この点、“不利益変更”ということを心配されるみなさんも多いことと思います。人事用語解説でも解説していますが、不利益変更だから直ちにその効力が否定されるというわけではありません。効力の有無は最終的には裁判所が「その変更の内容、手続きが合理的かどうか」によって判断するのであり、それまでは最終的な結論は誰にもわかりません。過去の裁判例等に照らしての専門家のアドバイスも大切ではありますが、自社のケースとピッタリ同じというものはなかなか見出せないものです。
従って、その判断は会社の経営について最終責任を負うトップが決断する以外にないのですが、その際のポイントを以下にお示しします。

Point 1.
廃止や減額の理由を合理的に説明できるかどうか

詳細は前月号で解説していますのでそちらをご覧ください。

Point 2.
社員に与える痛みを十分に考えているかどうか

いくら必要性や合理性がないといっても、その手当を支給し始めた当初は“合理的”と考えていたのです。状況や環境が変化したために必要性や合理性を失ったにすぎず、それは社員の責任ではありません。この点から考えれば「なるべく社員にとって痛みの小さい方法を選択する」というのは当然のこととなります。

Point 3.
説明を十分に行う

特に痛みを受けることとなる社員に対しては、“個別に”“理由を真摯に説明する”という対応が必須です。全員が納得してくれるということはないと思われますが、社員の意欲の低下を招いてしまっては何の意味もなくなります。大切なのは“理由を真摯に”“正直に説明する”ということです。これをやるかやらないかで結果は大きく変わってきます。また、手続き面では就業規則(給与規程)の改定、届出も必要となります。

基本給が変動する場合の対応方法

3の基本給吸収方式を採った場合には、賞与や退職金にも影響することがあります。基本給を算定基礎としている場合です。

賞与について

「該当の手当を基本給に吸収することが合理的」という場合には、特段の対応は要らないケースが多いでしょう。しかし、「基本給に吸収することが合理的ではないが、社員に与えるデメリットをなくすため」とか、「基本給に吸収することは合理的だが、賞与には影響を与えたくない」とお考えの場合には、

賞与の算定基礎額を月例給与とは別に設定する

ことをおすすめします。
賞与の算定基礎として月例給与(特に基本給)を用いる方式は一般的ですが、この方式が真に合理性を有するのは“基本給が社員の実力、貢献度を正しく反映している場合”です。この場合には基本給を賞与の配分単位として活用することは合理的です。しかし、“基本給が社員の実力、貢献度を正しく反映していない、あるいは(手当の改廃等によって)反映しないこととなる場合”には、別の賞与の配分単位を設定した方がはるかに合理的です。

退職金について

賞与とは異なり、基本給を算定基礎とする算定方式は“改めるべき”でしょう。
退職金の性格をどのようにとらえるべきかについては諸説がありますが、どの説、立場を採るにせよ、

月例給与(基本給)の上昇がそのまま退職金額にハネ返る
=連動する方式は“必然性”がありません。

たとえ「在職中の貢献度を反映、還元するのが退職金である」との立場に立つにせよ、基本給が上昇すれば全員一律に退職金水準も上昇していくというのは説明がつきません。そもそも社員に対して「どれくらいの月例給与を支払うべきか」ということと、「どれくらいの退職金を支払うべきか」ということは分けて考えるべきことです。具体的には「ポイント方式退職金制度」の導入などに踏みきるべきでしょう。

まとめ

以上2回に渡りまして月例給与の効果的・効率的な支給を実現するための大前提について解説を行いました。いきなり給与や賞与の一律カットや安易な成果主義人事の導入などで「コストカット」を行うのではなく、“自信と覚悟”を持って社員の給与処遇を考えることの重要性がご理解いただけたら幸いです。

次回は、「昇給制度のあり方」についての事例解説を行います。
ご期待ください。

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