人事企画の成果物の代表例は人事制度ということができるでしょう。
しかし、前月号でも触れましたが、人事制度を導入しただけで、自動的に会社が期待する行動を社員がしてくれることはまずありません。
人事制度の最大の目的は社員の行動変化を起こすことにあります。しかし、長年染みついた価値観や習慣というものは容易には変えられません。
例えば、働き方改革を例にとって考えてみましょう。
これまでの1日8時間・週40時間のフルタイム勤務、残業・休日出勤OK、という働き方は単身者や専業主婦のいる男性を前提としたものです。しかし、若い人の数が減り、共働きが当たり前となっていく中で、多くの企業が必要な人員を確保するために、より柔軟な働き方を認め、積極的に受け入れていく姿勢へと転換していきました。
ところが、そのような柔軟な人事制度を導入しても、現場の責任者の意識がなかなか変わらない、という企業も存在します。現場の責任者(店長など)に募集条件や採用の決定を委ねている場合、いつまで経っても従来型のフルタイム勤務、若い人しか採用しない、というようなケースです。ほとんど応募がないのが現実であるにもかかわらず、行動を変えようとしないという例も実際に存在します。
このような場合には、少なくとも募集条件の設定は現場の責任者ではなく、本社で行うなどの対処が必要でしょう。「良い人が採用できた」「先入観、食わず嫌いだった」というような成功例が出てくれば波及的に現場の責任者の行動は変わってくるものです。
また、組織は上から変わっていく必要があります。社員は誰もが上を見て仕事をする、見習うという習性を持っているからです。
人事制度を導入し、社員の行動変化を起こすうえでのキーマンは、部長クラスの上級管理者である場合が多いと考えます。
人事制度を導入しただけで部長クラスの上級管理者がその趣旨をよく理解し、具体的な行動に移してくれればそれに越したことはありません。しかし、そのようなケースは半分にも満たないのが現実であると考えます。
このような場合には、人事制度の導入と合わせてボトムアップ、折衷型の経営計画の策定とその実行状況の検証システムを取り入れていくことが有効であると考えます。
部長クラスの上級管理者各自に3年後の会社もしくは自部門のビジョン(あるべき姿)を出させ、そのビジョンを実現するためにこれから半年ごとに具体的に何を実施するのか?実施できた事項は何で、何が実施できなかったのか、次はどうするのか?を策定、検証していくしくみです。
こうすることで現状を継続することを許さない場をつくり出していくのです。
人事企画とは制度やしくみを構築することではありません。制度やしくみは手段、道具にすぎません。
目指す状態、会社にせざるをえない状況=場をつくり出していくことこそ人事企画の機能なのです。