社員の人事処遇上の位置づけを引き上げることを一般に昇格と呼びます。この昇格の可否を判断する基準、すなわち昇格基準のあり方は賃金管理のあり方と密接な関係があります。同じような人事制度を採っていてもこの昇格基準のあり方が異なれば、賃金管理の基本思想や社員の意識に異なる影響を与えることとなります。
そこで今回は、昇格基準のあり方について2つの手法を紹介したうえで、それぞれが賃金管理の基本思想や社員の意識にどのような影響を与えるのかについて考えてみたいと思います。
「ポイント化」とは、人事考課の評語(A、B、C…)をポイント(A=2点、B=1点、C=0.5点…)化し、このポイントの累積点が昇格の基準点(1級→2級への昇格には3点、2級→3級への昇格には4点…)に達したときに、昇格の候補者としてリストアップし、昇格の可否を判断する方式です。
一般に昇格には上司の推せんを前提としている会社が多いことも事実ですが、上司の推せんがなければ昇格審査を受けることすらできないということになると大きな不公平を招くことになります。「ポイント化」の最大のメリットはこの不公平をなくし、基準点を満たせば誰でも昇格審査を受けることができるようにすることで、人材を埋もれさせるリスクを小さくすることができる点にあります。
反面デメリットもあります。「ポイント化」の本質は過去の考課の積み上げですので、どうしても年功の傾向につながりやすくなります。また、過去・現在の仕事での考課に基づいて賃金を引き上げていくということになりますから、積み上げ型の賃金管理へとつながっていきます。
また、ポイントが昇格の基準点を満たしていても昇格の可否は昇格審査を経て最終決定されるのが通常ですから、候補者全員が昇格するわけではありません。この点について社員の目から見た場合、「なぜ自分は基準点を満たしたのに昇格できなかったのか」という不満や不透明感を持つ可能性もあります。
「具体化」とは、昇格の可否を仕事の実績に照らして判断できるように要件を具体的に定める方式です。必要に応じて人事異動の経験などを要件の一つとして組み入れることもあります。
「ポイント化」との大きな違いは、過去の考課の積み上げではなく、昇格後の仕事が実際にできるという実績をもって昇格させる点にあります。従って、獲得型の賃金管理ということができます。
「ポイント化」で指摘したような「なぜ自分は基準点を満たしたのに昇格できなかったのか」という不満や不透明感を社員が持つ可能性は小さくなります。また、
という意識をはっきりと社員に持たせることにもつながります。人材育成上の課題も具体的につかみやすくなります。
現在の経済、経営環境下では優れた方式といえますが、実際の適用にあたっては工夫が必要な局面もあります。職位や職制に応じた役割分担が明確な組織では、正式な昇格決定の前段階として“仮登用”の制度を設け、昇格後の仕事が実際にできるかどうかを判断するしくみの導入などが必要でしょう。また、大規模組織では「ポイント化」で指摘した「人材を埋もれさせてしまう」事態を招かないようにする工夫も必要でしょう。対策としては「ポイント化」と「具体化」を組み合わせた昇格基準を設定するなどの方法が考えられます。
昇格基準のあり方について「ポイント化」を採った場合、積み上げ型の賃金管理へとつながっていきます。積み上げ型の賃金管理は賃金と仕事の価値、それを生み出す能力との関係を弱める特徴があります。一方「具体化」を採った場合、獲得型の賃金管理へとつながっていきます。獲得型の賃金管理は賃金と仕事の価値、それを生み出す能力との関係が明確となります。また、賃金は積み上げていくものではなく、自分自身の能力を高めることで獲得していくもの、という意識をはっきりと社員に持たせることにもつながります。今後の昇格基準のあり方は「具体化」を基本としながら自社に合った工夫を加えていくべきでしょう。