本年7月号と前月号では定期昇給とその上限設定の考え方を取り上げました。
これらは資格、等級などの基本給管理区分が上昇=昇格しない場合の基本給運用ルールの詳細を定めるものです。
一方、基本給管理区分が上昇=昇格するタイミングも社員一人ひとり異なるのが現実であり、必ずしもモデル賃金表どおりとはなりません。
そこで今回は基本給管理区分が上昇=昇格した場合の基本給運用ルールの詳細について取り上げてみたいと思います。
基本給管理区分が上昇した場合に限って行われる基本給の昇給のことを昇格昇給といいます。
この昇格昇給については次のとおり2つの考え方があります。
モデルどおり、すなわち会社の期待どおりの実績を上げ、順調に昇格した場合にはモデル賃金表どおりの昇格昇給が行われる。
一方、モデルよりも遅く昇格した場合には、昇格前の基本給に最も近い基本給を昇格後の基本給とするため、昇格昇給が0(ゼロ)となることもある(※前月号で取り上げた「開差型」の場合には昇格昇給が0(ゼロ)となることはありません)。
モデルどおりに昇格した場合にはモデル賃金表どおりの昇格昇給が行われる。
また、モデルよりも遅く昇格した場合であっても、昇格前の基本給にモデル賃金表どおりの昇格昇給を加算して昇格後の基本給を決定するため、昇格昇給が0(ゼロ)となることは原則としてない。
考え方1 は、モデルよりも遅れれば遅れるほど昇格昇給が減っていく考え方であり、「昇格への意欲づけを図る目的がある」と従来言われてきました。
しかし、昇格とは本来仕事の価値が上昇することであり、仕事の価値が上昇したにもかかわらずその対価が0(ゼロ)というのは基本的には妥当とは考えられません。
もっとも、例えば基本給とは別に役職手当が存在し、昇格=昇進 に伴って役職手当が増額するような場合には上述した問題はなくなります。
また、考え方1には基本給の全体水準を現実的な範囲内に収めるという効果もありますので、最終的にはこれらの要素を含めて自社に適用するかどうかを判断することになります。
考え方2 は、モデルよりも遅く昇格した場合であっても、モデル賃金表どおりの昇格昇給を行う考え方であり、基本給=仕事の対価 という大原則に忠実なものと言えます。
しかし、
・ 昇格後の定期昇給の上限にすぐに達してしまう
・ 上記を避けようとすれば基本給の全体水準の上昇を招く
といった問題が生じやすいことも否めません。
賃金制度全般について言えることですが、いくら理屈が通っていても、現実に適用、実行できなければ0(ゼロ)点です。
最終的には自社における実行可能性を十分見通したうえで昇格昇給のあり方を決定することが大切です。