お客様から相談や依頼を受けるにあたって、かなり内容が絞り込まれていることがあります。「社員のコミュニケーション能力を強化したいので、それを人事考課の項目の中に取り入れたい」「管理者の部下に対する教育水準や評価尺度にバラツキがあるので、考課者研修を依頼したい」「製品開発のスピードアップを図りたいので、開発計画の遵守度合いをボーナスに反映させたい」「開発担当者が営業部門へのサポートに大きな時間を割いているので、そのことを人事考課の対象にしてあげたい」「他社事例にあるように当社でもポスト給(※ポストに応じて決まる給与)や相対考課を導入したい」などといったものです。
しかし、これらの中にはそのまま実行した場合に意図した効果が出ないばかりか、かえって弊害の出てしまうものもあります。
そこで今回は、問題意識を感じたときにそれをどのようにしたら真に解決すべき課題として明確化できるのか、また、課題解決の方法を考えるにあたってのポイントについて解説してみたいと思います。
例えば<はじめに>で紹介した「社員のコミュニケーション能力を強化したいので、それを人事考課の項目の中に取り入れたい」というケースについて考えてみます。「コミュニケーション能力」というだけでは人事考課の項目の中に取り入れるにしてもどこの会社にも当てはまるような一般的な内容となってしまい、社員の行動を変えるインパクトは持ち得ません。そこで大切なのは、どのような行動がとれる社員が理想なのか、できる限り“具体的に”列記してみることです。このときに出てきた具体例次第では、意図すべきなのは「コミュニケーション能力の強化」ではない別の事項ということもありえます。例えば出てきた具体例が「部下に対して良いところも改善すべきところもきちんと伝えられる」「目標の達成に向けて率先垂範できる」「チーム全体を動かすことができる」というようなものである場合、コミュニケーション能力は手段としては重要ですが、真に意図すべきは「責任者意識、リーダーシップの強化」と言えるでしょう。このような場合には「責任者意識、リーダーシップの強化を図ること」が真に解決すべき課題ということになります。
また、「開発担当者が営業部門へのサポートに大きな時間を割いているので、そのことを人事考課の対象にしてあげたい」というケースについても、もっと開発担当者のあるべき姿を“突き詰めてから”対応策は決めるべきでしょう。自社の開発担当者のあるべき姿を突き詰めた結果、営業部門へのサポート活動にも積極的に取り組むべしということであればそれを人事考課の対象にしてあげてもよいでしょう。反対に開発担当者は本来開発業務に注力すべきであり、現状行っている営業部門へのサポート活動は本来営業部門で自己完結すべき事項である、ということであれば結論は全く異なることとなります。この場合に真に解決すべき課題は「営業部門における自己完結能力をいかに高めるか」ということになります。
このように
真に解決すべき課題が明確になったとしても、その解決策が的を射たものでなければやはり効果は期待できず、また弊害の出てしまうこともあります。例えば「管理者の部下に対する教育水準や評価尺度にバラツキがあるので、考課者研修を依頼したい」というケースについて考えてみます。この場合の基本中の基本はなぜ「教育水準や評価尺度にバラツキ」が生じているのか、その原因を探ることですが、その原因を探るにあたってポイントとなるのが“一つの枠の中では考えない”ということです。最初から原因と考えられる事項、例えばこの場合であれば教育や評価の拠り所となる人事考課基準の明確性や、その理解を深めるための考課者研修の内容の妥当性といったことだけにとらわれて原因を探り、対策を実施しても効果が得られないこともある、ということです。「管理者の部下に対する教育水準や評価尺度にバラツキがある」ということは、これらができている管理者とできていない管理者がはっきりしているということでもあります。
このような場合には「できていない」管理者に対する個別指導の徹底や人事異動を通じて管理者と部下の組み合わせを変え、結果として教育水準や評価尺度の統一を図るといった対策も必要となります。優先順位を付けて実施していく必要はありますが、最初から人事考課基準の明確性やその理解を深めるための考課者研修の内容の妥当性だけにとらわれて対策を実施しても効果が得られないこともあるのです。
また、「製品開発のスピードアップを図りたいので、開発計画の遵守度合いをボーナスに反映させたい」というケースについても同様のことが言えます。この場合、「製品開発のスピードアップを図る」という課題に対して、「開発計画を遵守すること」が唯一の対応策であることが前提となっています。しかし、この“とらわれ”を捨てて考えてみた場合、「もっと早く開発に着手すること」の方が有効な場合もあるでしょう。このような場合には一度立てた開発計画を遵守することよりも、もっと早く開発に着手できるように日頃から情報収集を行い、開発テーマの優先順位付け、絞り込みをするように社員の行動を方向付けた方が有効です。
以上2つの事例から言えるのは、
ということです。
また、「他社事例にあるように当社でもポスト給や相対考課を導入したい」というケースは最も要注意です。このような相談や依頼の中には“なぜそれをやるのか?”きちんと整理できていない場合が多々あるからです。
自社の課題が何で→その解決策としてはどのようなものが考えられ→どのような順番で実施していくのが有効なのか、がきちんと説明できないということは、人事企画を行ううえでの基本中の基本がクリアーできていないということです。このような場合に相談や依頼どおりにポスト給や相対考課を導入すれば間違いなく極めて大きい弊害をもたらすこととなります。
この理解なくして安易に「他社がやっているから」という理由だけで自社に取り入れれば百害をもたらすこととなります。
問題意識を感じたときにそれをそのまま解決すべき課題としてとらえてしまっては意図した効果が出なかったり、かえって弊害の出てしまう場合もあります。
安易な他社事例の導入は百害をもたらすこととなります。