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第14回  2011年7月号

〜考課(評価)者研修のあり方について考える〜

はじめに

他人に自分の人生を左右されてうれしいと感じる人はあまりいないでしょう。人事制度や人事考課(評価)制度と聞いてなんとなく拒否感を感じるのはこの点を意識してのことではないかと思います。拒否感があること、抵抗を感じることに心からの納得や理解を得ることはできません。
考課(評価)者研修には「公平な評価能力を身につけてもらうこと」という目的があります。しかし、この点だけを強調して教育を行っても上記の拒否感、抵抗感を感じる人もいることでしょう。また、学校の入学試験のような公平性を人事考課(評価)に求めることにはそもそも無理があります。

そこで今回は考課(評価)者研修を“どのような場として位置づけ”、“カリキュラム設定を行うことが適切なのか”、について考えてみたいと思います。
よろしくお願いします。

理念 = 価値観を共有する場とすることが重要

考課(評価)者研修の最も重要な目的は「会社の経営理念 = 基本的な価値観を共有すること」です。企業規模の拡大に比例して管理者数も増大します。また、新卒で入社した人、中途採用で入社した人、主に経験してきた業務(いわゆる〇〇畑)なども多様となってきますので、仕事をしていくうえでの基本的な価値観はなかなか共有できるものではありません。考課(評価)者研修はこれらの多様な背景や考え方を持った人たちが一同に会して、具体的な題材に基づいてお互いの意見を交換できるまたとない機会となります。また、基本的な価値観が共有されていれば評価のバラツキなども最小化できます。

「基本的な価値観まで押しつけられるのは嫌だ」といった声も考えられますが、基本的な価値観が違う会社で仕事を続けていくことの方が会社・社員の双方にとって不幸なことではないでしょうか。実際に、しっかりとした経営理念を持ち、本気でその実現を追求している会社ではこのような声はほとんど聞かれません。このような声が聞かれるということは理念が管理者のレベルにすら浸透していないということの証であり、さらにその原因を掘り下げていけば経営活動のどこかに理念と矛盾するところがある = 嘘がある、ということになるでしょう。

具体的なカリキュラム設定、実施方法

それでは次に、考課(評価)者研修の具体的なカリキュラム設定や、実施方法などについて考えます。
初回は次のようなカリキュラム設定とすることが適切でしょう。

考課(評価)者研修のカリキュラム(初回)
1
2
3
120分〜180分程度
人事制度の目的や全体像についての説明・質疑応答
人事考課(評価)の内容、ルールについての説明・質疑応答
(必要に応じて)給与(報酬、賃金)制度、退職金制度などについての説明・質疑応答
“単なる押しつけ”や“口をふさぐ”ことは厳禁。
理解を得ることを最大の目的とし、“質問を引き出す”ことに心を配る。
休憩
4
60分程度
ケース・スタディーに基づく個人別考課の実施
ケース・スタディーを読んで、各自個人別に考課を実施する。
自社の実務に準拠したケース・スタディーを使用することが必須。市販のビデオなどの教材では一般教養以上の効果は得られない。
自社の実務に準拠したケース・スタディーと自社の考課(評価)表を使用することで“実践する能力”が身につく。
5
30分程度
個人別考課結果の集計
個人別考課結果のバラツキ状況を全員で確認する。
6
90分〜120分程度
グループ討議の実施
グループに分かれて、個人別考課の結果を持ちより、他の人の意見を聞き、自分自身の意見を述べることを通じて、基本的価値観の共有化を図る。
普段あまり接触がない人同士を組み合わせるとよりいっそうの効果が得られる。
講師は各グループを回って、共通傾向としてみられる疑問点や問題点を収集して、次の「解答・解説」に活用することが大切。
7
60分程度
解答・解説、質疑応答
必ず「会社としてはこう考える」という“答え”を言う。「そのような考え方もありうる」などといったあいまいな言い方ではかえって逆効果となるので注意が必要。
なお、上記の“答え”には理由・根拠を必ずつけること。
質問は歓迎し、あいまいな答えは避け、必ずはっきりと回答する。すると次から次へと質問が出てくるのが通例。出席者は“実のある回答が得られるかどうか”をシビアに見ている。

2回目以降は初回の研修内容をふまえて、

・各管理者が日常業務の中でどのような指導を部下に対して行っているか、問題点は何か ・人事考課(評価)で見られる問題点

などを把握したうえで、その問題点を都度是正する内容とすることが適切です。

考課(評価)者研修のカリキュラム(2回目以降)
1
60分程度
直近の考課や日常業務の中で見られる問題点について説明
プライバシーに反しない範囲内で実例に基づいて話をすることで、単なる勉強ではなく、実践の場であることを意識させることが大切。
この段階では「何が」「なぜ」問題なのか、を説明するにとどめ、答えは言わない。
2
60分程度
ケース・スタディー 個人別に実施
1に対する現時点での各自の理解度を問うケース・スタディーを用意し、個人別に解答する。
3
90分〜120分程度
グループ討議の実施
4
60分程度
解答・解説、質疑応答
34は初回と同様の要領で実施する。

なお、大切なのは“継続すること”です。現場の実務や状況は日々変化していますので、何年間も放置しておくと各管理者の意識や行動も当初の意図とは徐々に乖離していくものです。一方で現場から出される前向きな意見や提案はどんどん採り入れていくことも大切です。これらのことを可能とする“場”は意外と少ないものです。考課(評価)者研修を“理念の鮮度を保つための場”として活用することが必要です。

まとめ

20年、30年前から「考課の目的は社員の育成にある」「給与(報酬、賃金)に差をつけることがねらいではない」ということは言われてきました。しかし、そのことをいくら強調しても管理者を含めた社員側の理解と納得は得られていないのではないでしょうか?そこには経済情勢に基づく安易な成果主義人事の導入などの影響もあったものと考えられます。この状態を放置したままでは理念の浸透など期待できません。
考課(評価)者研修を“理念=基本的な価値観を共有する場”“理念の鮮度を保つための場”として活用することがこの社員の心の奥底にある不信感を払拭することにつながっていきます。

次回も社員教育の実例を取り上げます。ご質問、お問い合わせ、歓迎です。
引き続きよろしくお願いします。

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