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第60回  2015年5月号

〜新人事制度を導入、運用していく〜

はじめに

過去3回にわたって新人事制度の要件定義の仕方から基本設計詳細設計を行うにあたってのポイントまで解説してきました。詳細設計が終わればいよいよ新人事制度を導入、運用していくこととなります。

そこで今回は、新人事制度を導入、運用していくにあたってのポイントについて考えることとします。なお、今回は新人事制度を有効に機能させるためのポイントに絞って解説を行うこととし、労使交渉や就業規則の改定手続きなどについては他の機会に譲りたいと思います。

人事考課の基準を公開することが最大のポイント

新人事制度を有効に機能させる最大のポイントは 人事考課の基準を必ず全社員に公開し、教育のよりどころとして活用する

ということです。かつては、人事考課とは給与や賞与を決めるための査定であり、その基準も管理者が知っていればよく、広く一般社員にまで知らせる必要はない、という考え方もありました。その影響か、今でも管理者の中には部下には見せてはいけないもの、一般社員の中には見てはいけないもの、という考えが色濃く残っているという現実があります。しかし、人事考課の基準とは、「当社においては仕事をしていくうえで何が正しく、何が正しくないのか」を明示したものです。この基準が社員に広く公開され、かつ日常の教育・指導のよりどころとして活用されてこそ、新人事制度は有効に機能しているといえます。従って、人事考課の基準は必ず全社員に公開すること、そして日常の教育・指導のよりどころとして活用することが大切です。たとえ人事考課の基準を公開していたとしても、年2回程度、人事考課のフィードバックの際に人事考課の基準に基づいて指導を行う、というだけでは全くもの足りません。

また、以上のような人事考課の基準の活用の仕方をすることで、よりよい人事考課とするための修正点も明らかになってくるのです。さまざまな統計を見ても「評価の基準があいまい」という不満がいつも上位を占めています。原因は人事考課の基準を有効に活用することができていないからではないかと考えます。

賞与の決定方法など裁量の幅があるものは反対に公開の仕方を考える

人事考課の基準とは異なり、賞与の決定方法など裁量の幅があるものは全面公開しない、あるいは公開の仕方を考える、といったことが適切な場合もあります。例として挙げた賞与の場合、基本的な計算方法や決定の考え方などは公開した方がよいといえます。しかし、賞与は半期など比較的短期における会社への貢献度に基づいて決定されるものですので、ある程度の幅での加算や減算が行われるケースが多いというのが現実です。従って、そもそも賞与の決定方法など裁量の幅があるものは全てをルール化し、公開することはできない、ともいえます。「全てのルールを公開した」と言っておきながら、ルールとは異なる運用、決定をすれば社員の信頼感、モチベーションは反対に低下してしまいます。このような場合には公開の仕方を「社員と約束できる範囲」にとどめておいた方が適切といえます。

導入は始まり、であることを忘れてはいけない

かつては、人事制度は一度導入すれば、後は年1回のベース・アップと年2回程度の考課者研修を繰り返していけば、自然に自社流に馴染んでいく、と考えられていた時代もありました。職能資格制度が主流であった時代はまさにそうでした。しかし、現在ではそうはいきません。明確な基本戦略を立ててそれをすばやく社員に浸透させ、実行に移していかなければ会社を発展、維持していくことができないからです。その最も有効な手段が人事制度であるといえます。例えば、新しい部門や職制を作って経営陣としては新たな機能や役割の発揮を期待したとします。しかし、その期待内容をわかりやすく示したものがなければなかなか社員には伝わりません。経営陣にかなり近い企画を担うような部門の社員であっても新しい部門や職制に経営陣が期待していることがよく理解できていない、という事例をこれまで数多く見てきました。やはり、わかりやすく文章にして示す、ということは理解を得るための土台として必要なことです。人事考課の基準は社員が最も関心を持つものですので、人事考課の基準を通じてこれら新しい部門や職制に会社が期待していることを示すことは極めて有益かつ重要であるといえます。

また、ある部門で試験的に導入したしくみが良ければ他部門へも拡大する、社員、会社の成長に合わせて人事制度、人事考課の基準の中身もレベルアップさせていく、法律の改正を後追いするだけの規程改定ではなく、将来を見据えた人事管理のしくみを企画するなど、人事の企画には終わりはありません。

新人事制度の導入は自社の理念、基本戦略実現に向けての始まりにすぎないことを忘れてはならないのです。
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