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第18回  2011年11月号

〜考課(評価)が適正に行えない理由について考える〜

はじめに

人事制度が当初のねらいどおりにその効果を発揮するかどうかは“考課(評価)が適正に行えるかどうか”にかかっています。ところがこの点についての悩みを抱えている会社は数多く存在します。

そこで今回は、考課(評価)が適正に行えない理由を、考課(評価)者の「評価技術によるもの」と「心情によるもの」とに分けて、その是正策について考えてみたいと思います。
なお、“そもそも考課(評価)基準が明確でない”といった「制度によるもの」も考えられますが、これについては2010年11月号で詳述していますので、そちらをご覧になってみてください。

評価技術によるもの

考課(評価)は通常次の3つのステップをふんで決定されます。

1.
事実の選択

考課(評価)の対象とすべき事項かどうかを選別し、対象となった事項の事実関係を正しく把握することです。

2.
項目の選択

考課(評価)の対象となった事項をどの考課(評価)の項目で評価するのかを選択することです。

3.
段階の選択

該当の考課(評価)項目の評価段階(「S」「A」「B」「C」「D」など)をどの段階にするのかを選択することです。

このうち考課(評価)が適正に行えない理由として最も多く見られるのは「2項目の選択」の誤りです。
次の図を見てください。

それぞれの考課(評価)項目には適正な「見るべき範囲」があります。ところが評価技術が不十分な考課(評価)者の場合には、この範囲を「限定しすぎ」たり、「拡大解釈」したりするのです。例えば、部下の行動の中にマイナスの事実があったとします。「限定しすぎ」る考課(評価)者はこのマイナスの事実を見ませんから考課(評価)を下げませんが、正しく見ている考課(評価)者は考課(評価)を下げます。

限定しすぎの考課(評価) > 正しい解釈の考課(評価)

また、部下の行動の中にプラスの事実があったとします。「拡大解釈」する考課(評価)者はこのプラスの事実を見て考課(評価)を上げますが、正しく見ている考課(評価)者は考課(評価)を上げません。

拡大解釈の考課(評価) > 正しい解釈の考課(評価)

上記の図ではどちらの場合も正しい解釈の方が考課(評価)が低くなりますが、実際の場面では「高く考課(評価)すべきところを低く考課(評価)しすぎている」という逆も当然起こります。
考課(評価)の判断材料を間違えれば正しい考課(評価)などできるわけがありません。「評価技術」が原因で適正な考課(評価)が行えない“ツボ”はまさにここにあります。ただし、これは考課(評価)者研修を継続的に実施することで比較的容易に是正することができます。

心情によるもの

人事考課(評価)には必ず考課(評価)者という人が介在します。従って、コンピューターのプログラムのように入力する情報(判断材料)が同じであれば出てくる結果(考課結果)は皆同じというわけにはいきません。そこには心情が入り込むからです。
この是正策として従来から行われているオーソドックスな手法は、「考課エラー」(ハロー効果、中心化傾向など)について学ぶことで自覚を促す、というものです。しかし、これらの「考課エラー」というものは考課(評価)者自身大部分「よくわかったうえでやっている」のです。
ではどのような是正策が有効なのでしょうか?
これは誰かが“防波堤”となって防ぐ以外に方法がありません。多くの会社で一次考課(評価)、二次考課(評価)という多段階の考課(評価)制度が採られていることと思いますが、この場合“防波堤”の役割を果たすのは二次考課(評価)者ということになります。「一次考課(評価)者は日頃の仕事ぶりを正しくとらえた考課(評価)を行うことに努め、二次考課(評価)者は一次考課(評価)が正しく行われているかどうかをチェックすることに力点を置く」のでなければ多段階考課(評価)制度を採用した意味がなくなります。 もうひとつ付け加えるとすれば、「マイナスに考課(評価)すべきものを甘く考課(評価)して部下が現状を改めることは絶対にない」ということを考課(評価)者によく理解させる、ということが上げられます。実は「考課(評価)が適正に行えない」という悩みの多くは「考課(評価)が甘い(中心化傾向を含む)」というものです。人間は誰でも人から良く思われたいですから、「厳しい考課(評価)をして部下から嫌われたくない」という考課(評価)者が多いということなのでしょう。しかし、“部下を中心にして”ものごとを考えれば、答えは反対になるはずです。部下にとって長年続けてきた習慣を変えるということは大変な努力がいるものです。「本当にヤバイ!!」と思わなければそのような努力を引き出すことはできません。「甘く考課(評価)して部下が現状を改めることは絶対にない」のです。

次回は

今回は考課(評価)が適正に行えない理由を考課(評価)者の「評価技術によるもの」と「心情によるもの」とに分けて、それぞれ最も多く見られるケースを中心にその是正策を解説しました。今回解説したこと以外にも是非ご紹介したい事項がまだ3つほどあります。次回はこれらの点について解説したいと思います。ご期待ください。

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