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第29回  2012年10月号

〜月給と賞与の役割分担の明確化〜

はじめに

給与制度のあり方を考えるとき、主眼は月給のあり方に置かれ、賞与は月給をベースにして考える、というのがこれまで一般的でした。しかし、「成果主義人事・給与制度を導入したが失敗だった」という事例の主要因はこの点にあるのではないかと考えられます。

そこで今回は、月給と賞与をそれぞれどのような考え方で構築すべきなのかについて考えてみます。

労働契約とは働いた「時間」に対して賃金を支払う、というもの

会社と従業員との間は労働契約で結ばれています。従業員は会社の指揮命令を受けて労務を提供し、会社は対価として賃金を支払います。これは、働いた「時間」に対して賃金を支払う、といいかえることができます。現在、労働基準法では裁量労働制事業場外労働のみなし労働時間制といったしくみも認められています。これらのしくみを使えば、実際に働いた時間とはかかわりなく、「労使双方にとって納得できる時間を決めて賃金を支払う」ことも可能です。しかし、「時間」に対して賃金を支払う、という本質は変わりません。なぜなら、会社が期待した成果を従業員が上げられなくてもすでに働いた(とみなされた)「時間」分の賃金を減額することは許されないからです。この点が、事業者が売買契約や請負契約を通じて商品やサービスを顧客に提供する場合と根本的に異なります。事業者の場合は顧客と約束した仕様どおりの商品やサービスが提供できなければ売上代金を受け取ることはできません。事業者の場合は成果主義といえますが、従業員の場合はそもそも成果主義ではないのです。

成果主義「賃金」の問題点

上記のとおり、従業員に支払う賃金を事業者と同じような成果主義にすることはできません。従って、成果主義「賃金」と呼ばれているものの実際の内容は、

過去半年もしくは1年間の仕事の成果に応じて、向こう半年もしくは1年間の賃金を決める

というものです。会社が期待した成果が上げられれば賃金は上がり、期待した成果が上げられなければ賃金は下がります。この場合の賃金には毎月支給される月給も含まれます。ここに成果主義人事・給与制度失敗の主要因があるものと考えられます。理由は次のとおりです。

半年もしくは1年間といった短期的な成果で月給を下げることには多くの人が抵抗を感じる → マイナス評価を付ければ月給が下がることがわかっているため、マイナス評価を付けることにためらいを感じ、結果として評価制度も形骸化する

あなた自身がマイナス評価を受けて月給が下がり、挽回できるとしても半年から1年先である場合を考えてみてください。正直モチベーションはあまり上がらないでしょうし、転職することも考えるでしょう。このような環境が半年もしくは1年ごとに必ずやってくるのです。毎回成果を上げ続けられるような人はほんのわずかです。結果としてどこにも転職できない人しか残らないという事態にもなりかねません。多くの人は暗黙のうちにそのことがわかっているため、“真面目に評価しない”という選択をするようになるのです。
また、現在の月給の昇給額は大企業でも1年間あたり5,000円〜6,000円程度です。「評価で格差を付ける」「マイナス評価の場合には月給を引き下げる」といっても、それによって生み出される金銭は決して大きいものではありません。通常はデメリットの方がはるかに大きいものと考えられます。

歩合給制が合理的と考えられるような業種や職種を除けば、月給は半年や1年間といった短期的な成果で決めるべき性格のものではないと考えられます。仕事の価値を基本としながら、生計費やインセンティブといった側面への配慮も必要です。

月給は短期的な成果よりもむしろ「能力」によって決めるべきものと考えます。

この場合の「能力」とは、その人が現時点で生み出すことができる価値のことを指します。この「能力」は、3年間程度その人が出した仕事の成果を見てみなければわかりません。正社員のように中長期の雇用を前提とする場合には、むしろその方が自然な「月給」の決め方ではないでしょうか。

月給と賞与の役割分担の明確化

<はじめに>でも述べたとおり、これまで賞与は月給をベースにして考えるという方式が一般的でした。今でも世間一般では「賞与は月給の何ヵ月分」という言い方が色濃く残っていることからも、まだまだこの方式が主流であることが窺えます。しかし、月給と賞与をそもそも分けて支給するのはその根本的な性格が次のとおり異なるからではないでしょうか?

1.
月給=完全な労働の対価。

働いた(とみなされた)時間分の月給は、会社が期待した成果を従業員が上げられなかった場合でも、支払う必要がある。
また、上述のとおり歩合給制が合理的と考えられるような場合を除いて、半年や1年間という短期的な成果で上下を繰り返すようなしくみとすることは、得られるメリットよりもデメリットの方が大きいものと考えられる。

2.
賞与=利益の配分。

従業員との間で特段の約定がある場合を除いて、原資がなければ支給しなくてもよい。
支給する原資がある場合には、(通常は)半年間の従業員個々人(あるいはチーム)の短期的な成果に応じて原資を配分する=支給額を決めることがそもそも合理的なものである。

このように考えますと、これまで一般的であった下記の方式は根本的に見直すべきでしょう。

賞与=月給×〇ヵ月分×査定係数 ※A評価=1.2、B評価=1.0、C評価=0.8…等 といった方式は根本的に見直すべきでしょう。

賞与については従業員個々人(あるいはチーム)の短期的な成果をより強く反映することができるように、必ずしも月給と連動させる必要はありませんし、評価の項目も月給や昇格を決めるものとは別個のものとしてもよいでしょう。

まとめ

半年もしくは1年間といった短期的な成果で月給の上下を繰り返すようなしくみは得られるメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいものと考えます。歩合給制が合理的と考えられるような業種や職種を除けば、月給は「能力」=その人が現時点で生み出すことができる価値によって決めるべきものと考えます。そしてこの「能力」は3年間程度その人が出した仕事の成果を見てみなければわかりません。正社員のように中長期の雇用を前提とする場合にはむしろこの方が自然な月給の決め方であると考えます。
一方、賞与はそもそも利益の配分ですから、従業員個々人(あるいはチーム)の短期的な成果をより強く反映することができるように、月給と連動させる方法を改め、また評価の項目も月給や昇格を決めるものとは別個のものとすることが適切でしょう。

月給は「能力」主義で安易に上下させない、賞与はより「成果」主義の色彩を鮮明化する、という本来の役割分担を正しくとらえた給与制度の構築が必要です。
みなさんの会社の給与制度はどうでしょうか?是非一度点検してみてください。

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