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第46回  2014年3月号

〜多様化する正社員へ備える〜

はじめに

正社員とは従来、「会社と期間の定めのない労働契約を締結している従業員」ととらえられてきました。そして、会社から指示された仕事を“何でも”“どこでも”遂行しながら、昇格・昇進のステップを上がっていく、というのが多くのケースでした。会社はこの正社員を事業運営上の中核人材として位置づけ、整備した人事制度の適用対象としてきました。パートやアルバイト、嘱託社員といった正社員以外の従業員は正社員の仕事を補助、補完する労働力として活用し、整備した人事制度の適用対象とはせず、個別の労働契約で処遇を行っていました。

しかし現在は、パートやアルバイトも従来は正社員が行っていたような仕事をしているのが現実の姿です。また、昨年4月1日に施行された改正労働契約法により、今後は「会社と期間の定めのない労働契約を締結しているものの、正社員ではない従業員」も会社の中に存在するようになってきます。また、仕事や勤務地を限定した「限定正社員」といった形態も拡大していくものと考えられます。このような状況を考えますと、いわゆる「正社員」の全員を従来のように会社の中核人材として位置づけて人事管理を行っていくことは適切ではないと考えられます。

そこで今回は、多様化する「正社員」を前提に、会社の中核人材として今後も位置づけられる人達に何が求められるのかについて考えてみたいと思います。

中核人材に求められるもの

これは「より付加価値の高い仕事に特化できること」に尽きるといってもよいでしょう。<はじめに>で述べた従来の正社員が受けていたのと同水準の処遇を受けられるのは、今後はこの要件を満たすことができる人材に限られるという現実を会社も従業員もしっかりと見据える必要があるものと考えます。手順を覚えればできる仕事、マニュアルに従えばできる仕事はすでに正社員の仕事ではなくなっています。あるいはより安い労働力を求めて海外へ移しかえられてしまっています。他の会社や人にはなかなか真似のできないことを仕事を通じて顧客に提供できなければ、従来と同じような報酬を受け取ることはできません。

しかし、現実はまだ過渡期にあるということができます。仕事の価値、それを生み出す能力に応じた報酬・賃金が浸透しているとは言い難く、「正社員」「非正規社員」といった"身分"に応じた賃金制度が色濃く残っています。「正社員」であれば「非正規社員」と同じような仕事をしていても賃金は高水準、というケースが多々あります。しかし、この状態を長く続けることは不可能です。

どのような対処が必要か、まとめ

ポイントは次の3点と考えられます。

1.中核人材に求められることを具体的にわかりやすく示す。2.従業員の側にも「受け身」→「自立」への方向転換をはっきりと理解させる。3.なるべく早く移行する。
1.中核人材に求められることを具体的にわかりやすく示す。

<中核人材に求められるもの>で述べた「より付加価値の高い仕事に特化できること」とは、自社に当てはめてみた場合にどのようなことを指すのか、従業員が理解できるように具体的にわかりやすく示すことが必要です。この点が明確化できないということは、自社の戦略が明確に定まっていないということです。また、従業員としても能力開発の方向性がわからなくなります。

2.従業員の側にも「受け身」→「自立」への方向転換をはっきりと理解させる。

<はじめに>でも述べたとおり、従来は「正社員」とは会社から指示された仕事を“何でも”“どこでも”遂行する存在でした。この点は現在も、また近い将来も変わることはないかもしれません。従って、どうしても会社からの指示に“従う”という意識が強まってしまうため、自分自身の能力開発についてもOJT(日常業務を通じた上司からの教育)や研修に依存する傾向があり、自分で自分の能力を高めるために工夫、試行錯誤する行動は少なかったのではないかと考えられます。しかし、他の会社や人にはなかなか真似のできない仕事上の能力は、与えられたこと・人から教えられたことをただマスターするだけでは身に付きません。会社としては必要最低限の教育はするが、そこから先の付加価値の部分は上記1で示された「中核人材に求められること」に照らして自分で開発する必要がある―開発できなければ中核人材にはなれない→従来の正社員が受けていたのと同水準の処遇は受けられない―ということを、従業員にもはっきりと理解してもらう必要があります。

3.なるべく早く移行する。

「正社員」「非正規社員」といった“身分”に応じた賃金制度や従業員の能力開発に対する「受け身」の意識というものは、それに長期間慣れてしまうとなかなか方向転換できなくなります。今若い従業員も10年経てば10歳年をとります。若ければ若いほど方向転換しやすいのも事実です。今後「正社員」の多様化が進む中で、中核人材に求められる要件の明確化従業員の能力開発に対する「受け身」→「自立」への方向転換には少しでも早い時期に取り組むべきであると言えるでしょう。

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