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第37回  2013年6月号

〜人事考課を通じた人材育成について考える〜

はじめに

「人事考課の目的は教育にあり、給料を決めるためではない」「結果は給料に反映させるが、目的と結果を取り違えてはならない」とは、長年強調されてきた言葉です。しかし、現実はどうでしょうか? 考課をする上司も、考課をされる部下も「人事考課=給料査定」の意識からなかなか抜け出せないというのが実態ではないでしょうか。

そこで今回は、なぜ「人事考課=給料査定」の意識からなかなか抜け出せないのか? どうすれば人事考課を人材育成へつなげることができるのか? について考えてみたいと思います。

「人事考課=給料査定」の意識からなかなか抜け出せない理由

これは2つの段階に分けて考えることができます。

1つ目は「公平に給料を決める必要がある」という意識が強い段階です。
社員が給料に不満を持たないようにするためには人事考課に基づいて給料を決める必要がある
↓
しかし、公平な人事考課が行われていなければこの論法は成り立たなくなるため、経営者や人事部門の関心が「公平な人事考課」に集中している段階です。
2つ目は「インセンティブ」という意識が強い段階です
誰もが自分の給料を上げたいと思って行動するため、人事考課と給料の結びつきを強めることで会社が望むような方向に社員を誘導することができる
↓
人事考課と給料の関連性をより強める必要があるため、経営者や人事部門の関心が「人事考課に応じた給料決定」に集中している段階です。

会社の規模の拡大に合わせて1つ目の段階から2つ目の段階へと意識や関心がシフトしていくのが通常のケースですが、ともに「人事考課=給料査定」のためという運用をしてしまっているのです。このような状況下では、「人事考課の目的は教育にあり、給料を決めるためではない」「結果は給料に反映させるが、目的と結果を取り違えてはならない」との言葉が考課者に甘い人事考課をさせないようにするための“添え物”程度の意味しか持たなくなるのも当然といえます。

「正しいプロセスが良い結果を生む」ことを理解させる

上述した「誰もが自分の給料を上げたいと思って行動する」というのはそのとおりですし、モチベーションの低下を招かないように「公平な人事考課」に尽力することも必要なことです。しかしながら、給料を上げたいと思うなら良い結果を出してから、というのが当然ですし、いくら公平な人事考課を行っていたとしても良い結果を生まなければ経営活動の一つとして人事考課を行う意味はありません。ここでいう「良い結果」とは、“高いレベルの業績”を“継続する”ことですが、それを生み出すことができるのは「正しいプロセス」があってこそです。「正しいプロセス」なくして偶然に出た結果というものは長続きしないものです。「正しいプロセス」とは“こうすれば良い結果を生み出すことができる”という「仕事の型」のことを指します。

正しいプロセス(=こうすれば良い結果を生み出すことができるという仕事の型)⇒良い結果(=高いレベルの業績を継続すること)につながる
従って、考課をする上司として大切なことは、「正しいプロセス」を繰り返すことが「良い結果」を生むことを、考課をされる部下に理解させることとなります。

この理解が得られれば部下もまずは「正しいプロセス」を繰り返すことに意識が集中するようになります。そのために必要なことは次の2点に集約することができます。

1.人事考課の基準を「正しいプロセス」を示したものとすること。
2.人事考課の基準を部下にも公開し、「正しいプロセス」を身に付けさせる=教育のよりどころとして活用すること。

1の点はクリアーしていても、2の点はできていない会社の方がまだまだ多いのではないかと考えられます。上司も部下も「良い結果」を得たいのは同じです。自分の給料を上げたいと思って行動します。そのためには「正しいプロセス」を繰り返す以外にないと気づいたときに初めて人事考課を通じた人材育成が可能となるのです。

まとめ

「人事考課を通じた人材育成」という言葉は長年語られてきました。しかし、現時点においても「人事考課=給料査定」の意識から上司、部下ともに抜け出すことができていないと考えられます。「人事考課を通じた人材育成」が可能となるのは、上司、部下がともに「良い結果」を得るためには「正しいプロセス」を繰り返す以外にないと気づいたとき、です。この気づきを与えるためには

人事考課の基準を「正しいプロセス」を示したものとすること
人事考課の基準を部下にも公開し、「正しいプロセス」を身に付けさせる=教育のよりどころとして活用すること

が必要であり、とりわけ2の点が重要となります。
みなさんの会社でも2の点が徹底されているかどうか、一度是非点検してみることをおすすめします。

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