執行役員
本来の意義と実態
・本来は経営上の重要な意思決定を取締役会の役割とし、取締役会で決定された方針に従った業務執行を執行役員の役割とする、というところに意義、目的があった。
・ともすればサラリーマンの出世の最後の階段として取締役のポストが位置づけられがちだったところから、取締役の数が増大し、取締役会で十分な議論ができないなどの弊害が生じたことから、上記のように執行役員制度が導入されることとなったのである。
・しかし上記のような本来的な意義を持った執行役員制度ばかりではない、というのが実態である。執行役員を社員の最上位ポストとして主として処遇上の目的から導入している会社、取締役候補者として位置づけている会社など、実態は多様化している。
・なお、どのような形態のものにせよ、執行役員は会社法上の機関ではなく、その他の法律にも明確な根拠や定義はない。
処遇制度のあり方
・上記のとおり執行役員制度の具体的内容は各企業によって異なり、またその身分(契約上の位置づけ)も委任契約により取締役に近いもの、労働契約により社員(従業員)に近い(または同じ)ものなどの違いがある。
・従って、その処遇制度のあり方も個別に考えていく必要がある。身分(契約上の位置づけ)が委任契約によるものである場合には、取締役に準じた処遇制度とすればよい場合が多く、執行役員独自の処遇制度を構築する必要性は少ない場合が多い。これに対して、労働契約によるものである場合で、執行役員制度を導入した目的から考えて社員の人事制度の延長線上では十分な評価や処遇ができない、という場合には、執行役員独自の処遇制度を構築する必要がある。後者の代表例としては、執行役員を取締役候補者として明確に位置づけているような場合や、執行役員に大幅な権限委譲を行っているような場合を上げることができる。
社員教育
目的
・自社の理念を実現するために必要な知識や技能、業務スキルなどを身につけてもらうこと。
・社員教育を行ううえで最も大切なのはこの「目的」を明確にする、ということである。社員教育の効果の有無もこの「目的」がどの程度実現できたのか、によって判断される。
・事故や問題の再発防止など、臨時に、特定テーマに絞った社員教育が必要となる場合もあるが、基本となるのは「自社の理念を実現するためには何が、どの層に対して必要か」という「目的」と「対象」を明確にした教育である。
よりどころ
・自社の理念を実現するためにどのような社員が求められるのかを定めたもの、すなわち「人事制度」、中でも人事考課(評価)の基準が社員教育のよりどころとして最も適切である。
・人事考課(評価)の基準で定められた要件をクリアーしてもらうために、どの「対象」に対して、「何が必要か」を導き出し、社員教育の全体像=体系図を作成する、というステップが求められる。
OJTを含めた体系化
・社員教育を効果あるものにするためには、OJT(日常業務を通じたトレーニング)を含めた体系化=ステップ・アップの道すじを示すこと、が必要である。OFFJT(日常業務を離れた研修)だけでは実務能力の向上を望むことは困難である。
内部ノウハウの活用
・社員教育を具体的に実施するにあたっては講師、指導者を選定することが必要となる。このとき、講師や指導者を外部講師に限定する必要は全くない。むしろ教育内容によっては自社の社員を内部講師、指導者として活用した方がはるかに効果的という場合もある。
・内部講師、指導者を活用する場合にはその前提として業務マニュアルの整備、標準化などが必要となる場合もある。
就業規則
定義
・労働時間、賃金などをはじめとする労働条件について、使用者(会社)が定める統一労働契約書。
・労働基準法では常時10人以上の労働者を使用する場合には、使用者に就業規則の作成を義務づけている。労働契約も他の契約と同様に、原則として使用者と労働者が一対一で合意してその内容を定めるべきものである。しかし、労働者の数が多くなるとそれぞれバラバラの労働契約では労務管理が煩雑になるほか、業務の円滑な遂行にも支障が出るなどの問題が発生する。そこで労働基準法は常時10人以上の労働者を使用する場合には統一労働契約書として就業規則を作成することを使用者に義務づけている。
・なお、この「労働者」にはパート・アルバイトも含まれ、これら正社員以外の者も含めて10人以上の労働者を使用する状態が通常の場合には就業規則を作成しなければならない。
作成手続き、不利益変更
・就業規則の作成やその変更にあたっては、使用者は労働者代表の意見を聴かなければならない、と労働基準法では定められている。労働基準法が要求しているのは「意見を聴くこと」であって、「合意を得ること」ではない。ただし、良好な労使関係の構築や社員のモチベーションを高める、という観点からは極力社員の納得を得るために最大限の努力をするべきなのは当然である。
・就業規則の内容は上記の意見聴取をはじめとする労働基準法上の手続きを経て変更することができる。変更後の内容が社員にとって不利なものである場合に、その変更の有効性が問題となることがある。いわゆる就業規則の不利益変更の問題である。このとき注意しなければならないのは、「不利益変更だからその変更は無効」ということではない、ということである。整理すると、変更後の内容が社員にとって不利なものである場合にはそれは「不利益変更」に該当するが、その効力は「内容、手続きが合理的かどうかによって決まる」ということになる。
附属規程、位置づけ
・給与(賃金)規程、退職金規程など、その内容が多岐にわたり、また条項数も多いものについては、就業規則本則とは別に、附属規程として別規則・規程を作成している企業も多い。この方が社員にとってもわかりやすくなるため、適切な方法であると言える。なお、労働基準法上はこれらの附属規程についても原則として「就業規則」に該当することとなるため、その作成や変更には就業規則本則と同じ手続きが求められることとなる。
・就業規則の本質は「契約書」であり、従ってその内容は権利義務関係が中心となる。自社の理念に則った就業規則にすべきなのは当然だが、就業規則だけで理念の浸透を図ることには限界がある。自社の理念を落とし込んだ人事制度をまず構築し、その内容を就業規則に反映させる、というステップが求められる。
人事考課(評価)制度
定義
・人事処遇の基準で定められた要件を、一人ひとりの社員がどれくらいクリアーできているのかを測るしくみ。
機能
・一般的には給与(報酬、賃金)の公正・公平な決定と教育への展開の2つの機能が期待される。
・しかし、人事考課の基準を自社の理念を実感→体験→内面化(納得、腹落とし)するためのあるべき仕事の“型”を示すもの、とすることにより、優れた企業文化形成のための基盤とすることもできる。
人事処遇の基準
定義
・社員の処遇の高さを決める判断軸。人事制度を構成する3つの柱のうちの一つ。
・自社の理念に照らしてどのような社員を手厚く処遇するのか、という方針から構築される。
呼称、バリエーション
・資格制度・等級制度と呼ばれることが多い。
・従来最も代表的なものとして、職務遂行能力の高い社員を手厚く処遇する、という職能資格制度を上げることができる。職務遂行能力とは企業内においてどれだけの仕事をこなせるかどうか=経験しているかどうか、というものであるため、年功的な処遇方針ともよく合致し、1990年代までは多くの企業が職能資格制度を採用していた。
・2000年前後から成果主義の処遇方針への転換を図る企業が多くなり、現在では職務や組織内での役割の重要度、遂行度合いなどを処遇の判断軸とする企業が増加している。
今後の展望
・現在のところかつての職能資格制度のように広まりを見せているしくみは存在しない。
・成熟経済のもと、各企業はこれまで以上に独自の理念、経営哲学に基づく事業運営が必要であり、自社の理念に基づく独自の社員処遇軸の開発を行うことが求められているものと考えられる。
人事制度
定義
・企業の、主として社員(従業員)の処遇のルールを定めたしくみ。
・処遇の主な内容としては、職位(ポスト)への登用、給与(報酬、賃金)の決定、教育・研修機会の提供、などがある。
3つの柱
・どのような内容の人事制度も、「人事処遇の基準」「人事考課(評価)制度」「給与(報酬、賃金)制度」の3つの柱から構成される。
・賞与、退職金制度といったしくみも「給与(報酬、賃金)制度」の中に含まれる。
意義
・社員が最も関心を持つのは処遇である。そのため人事制度は社員にとって最もわかりやすい「経営方針」となる。
・人事制度の中に自社の理念を明確に落とし込み、日々の仕事を通じて社員が理念を実感→体験→内面化(納得、腹落とし)する過程を通じて企業文化が形成されていく。
・従って人事制度の構築は経営トップの関与が必須の経営課題である。