「就社」という言葉に代表されるように、従来の社員の育成は「会社のメンバーとしてふさわしい人材に育てていく」ということに力点が置かれていたものと考えられます。しかし、社員の意欲を高め、高付加価値の商品やサービスの提供につなげていくためには、この社員育成の考え方は方向転換する必要があるものと考えます。「社員一人ひとりの専門能力の向上を目指す」方向への転換です。また、コンピュータ技術の普及による仕事の性質の変化もこの方向転換を迫っているものと考えます。
そこで今回は、なぜ
への方向転換が求められているのかについて考えてみたいと思います。
社員が仕事への意欲を持続する原因は2つに大別できるものと考えます。
①に力点を置けば人を活かした組織運営の色彩が濃くなります。②に力点を置けば組織に人を当てはめる色彩が濃くなります。中小企業の場合、①に力点を置いた方が強みを発揮しやすいといえるでしょう。
30年ほど前までは例えば「表計算ソフト」といったものも広く普及してはいませんでした。従って、集計表のタテとヨコの結果を合わせるといった仕事も重要な仕事として存在していました。今はそのようなことはなく、「販売管理ソフト」といったものを導入していれば、ほぼリアルタイムで集計結果だけでなく、様々な分析結果が図表やグラフで示されるようになっています。人間に求められる仕事はそれらの分析結果から「次どのように行動すべきか」を導き出すことです。このような「考える仕事」はその分野での専門能力がないと務まりません。このように仕事自体がどんどん“ソフト化”していく中では、社員一人ひとりの専門能力をいかに高められたかが会社の実力を大きく左右することになるのです。
「会社のメンバーとしてふさわしい人材に育てていく」→「社員一人ひとりの専門能力の向上を目指す」への方向転換を実行するにはそれにふさわしい人事制度や社員教育が必要となります。しかし、専門職として成長するかどうかは本人がその資質を持っているかどうかによって大きく左右されます。そして資質の有無は仕事を与え、その結果を見て判断する以外にないというのも事実です。従って、人事制度や社員教育の内容ももちろん重要ですが、社員一人ひとりの適性の見極め、適性に応じた配置というものが今真に求められているものと考えます。若年層のうちに1箇所3年程度の間隔で3箇所程度の部署・仕事を経験させ、その中から本人が最も能力を発揮できると考えられる仕事を本人の専門分野として育成していく。社員一人ひとりの適性の見極め、人を活かす組織運営こそ会社の力を最大化するキーポイントであると考えます。
また、「社員一人ひとりの専門能力の向上」は、今後必要となる高年齢者の活用にあたっても極めて有益であると考えます。自己の専門能力に磨きをかける意欲を失い、部下に指示するだけのいわゆる「管理職」はもはや必要ありません。しかし、高度な能力を持った人材であれば年齢にかかわりなく求められ、また会社に貢献します。
自社の社員教育のベクトルがどちらを向いているのか、一度よく振り返ってみることをおすすめします。