「ミスやクレームを減らす」「経営方針を現場に浸透させる」といったことは経営者が抱く動機であり、経営上の問題点そのものではありません。問題点は、経営者が抱いた動機が現状のままでは実現できない理由をつきとめた結果、はじめて導かれるものです。この問題点は自分で会社を立ち上げたプロの経営者でもなかなかわからないことが多いものです。「問題点さえわかれば解決策を考えるのは簡単だ」と言う方もいます。
そこで今回は、この問題点をつきとめるプロセスについて考えてみたいと思います。
「こうしたい」という動機を実現するために最初にしなければならないのは、その動機が現状のままでは実現できない理由=問題点をつきとめることです。この探究にあたってまず肝に銘ずべきは「問題点探究の枠組みを考えるところから始める」ということです。例えば、ミスやクレームが減らないのは「現状の品質マネジメントシステムに問題点あり」と決めつけてその部分だけ詳細に調べても、ミスやクレームが減らない理由がつきとめられないケースは多いものです。また、経営方針が現場に浸透しないのは「組織の風通しに問題点あり」として組織の風土調査を実施した結果、かえって“問題点らしきもの”が拡散してしまい、真の問題点が絞り込めなくなるということもあります。問題点をつきとめるプロセスでまず心得るべきは「最初から手法を決めてかからない」「問題点探究の枠組みを考えるところから始める」ということです。
ではこの「問題点探究の枠組み」はどのように考えたらよいのか、次に考えてみます。どのような手法を用いたら正確に問題点をつきとめられるのか、というアプローチの仕方は止めるべきです。それよりも
というアプローチの仕方を採った方がずっと早く、また正確に問題点をつきとめることができます。
このときポイントとなるのが“あるべき姿”を描く範囲です。この範囲がズレていると元も子もなくなってしまうからです。従って、この範囲は最初は大きくとらえて、徐々に絞り込んでいく、という手法を採ることとなります。例えば、前述した「ミスやクレームを減らしたい」という動機を実現しようとする場合、最初は品質マネジメントシステムも対象範囲に含めて“あるべき姿”を描き、現状との落差を把握します。同時に関連する可能性がある組織や人事のあり方などについても対象範囲とすることが必要です。要は
ということです。
なお、上記の仮説を絞り込んでいく過程では「事実を正確に把握すること」と「必要な場合には最初の段階に立ち戻ってやり直す姿勢」が必要です。事実を正確に把握するためには「必要な書類には全て目を通す」「書類だけで把握できない事項については関係者へのヒアリングをする」といったことが必要です。また、仮説を絞り込んでいく過程では当初は気づかなかったものの、「ここにも問題点が潜んでいるのではないか?」「この側面から検討してみたら問題点がみつかるかもしれない」といったことがどんどん浮かんでくるものです。このような場合には、面倒がらずに最初の“対象範囲の設定”に立ち戻って検証し直す“しつこさ”が必要です。
仮説をこのように“洗練”することで問題点を正確につきとめることがはじめて可能となるのです。
<はじめに>でも述べたとおり、問題点は自分で会社を立ち上げたプロの経営者でもなかなかわからないことが多いのです。その最大の理由は「視点がどうしても偏る」ということだと思います。品質マネジメントシステムにしろ、組織や人事のあり方にしろ、経営者には「最善の選択をしてきた」という自負があります。しかし、仕事の効率性を追求するあまり、一人の管理者の責任範囲が過大となりすぎていたり、管理者の数が不足しているためにとりあえず専門外の仕事にも管理責任を負わせている、といったケースもありうるのです。また、せっかく構築した品質マネジメントシステムも、例えばISOの認証を維持することだけが目的となってしまっていて、「改善に活かす」という本来の使い方ができていないというケースもあります。
一度すべての先入観を捨てて、問題点をつきとめることから始めてみてください。実際にやってみると意外に時間はかからないことがわかっていただけると思います。
「ミスやクレームを減らす」「経営方針を現場に浸透させる」といったことは経営者が抱く動機であり、経営上の問題点そのものではありません。問題点は、経営者が抱いた動機が現状のままでは実現できない理由をつきとめた結果、はじめて導かれるものです。
そして、この問題点の探究にあたってまず肝に銘ずべきは「最初から手法を決めてかからない」「問題点探究の枠組みを考えるところから始める」ということです。「ここに『こうしたい』という経営者の動機を実現するための“あるべき姿”との大きな落差があり、動機が実現できない根本原因があるであろう」という仮説を最初は広く立てて、それを徐々に絞り込んでいくことが大切です。仮説をこのようにして“洗練”することで問題点をつきとめることがはじめて可能となるのです。
一度すべての先入観を捨てて、問題点をつきとめることから始めてみてください。実際にやってみると意外に時間はかからないことがわかっていただけると思います。