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第26回  2012年7月号

〜重要性を増す“理念”の意義〜

はじめに

多くの会社で「お客様相談室」「カスタマーセンター」といった部署が設けられています。みなさんも何度か電話した経験をお持ちでしょう。そのとき「この会社はなるべく面倒なことはしたくないのだな」「自分の会社になるべく責任が及ばないような言い方ばかりするな」といった印象を持ったことはありませんか?その一方で、電話する前はかなり立腹していたものの、「本当にこちらの困っていることを理解してくれた」「できる限り誠実に対応してくれていることが手に取るようにわかった」「かえってその会社のファンになった」という経験はないですか?このような対応の仕方の差、顧客に与える印象の差は、その会社の“理念”の差によるものと考えられます。そこで今回は、

今後ますます重要性を増していくこの“理念”の意義について考えてみたいと思います。

会社は営利を目的とするだけか?

(株式)会社は「営利を目的としている」「利潤を追求するために存在している」とはごくあたりまえの常識として語られる言葉です。しかしこの言葉は会社のしくみを法的な一つの側面から説明しているにすぎず、世の中を構成する一員として会社を正しくとらえているとはいえません。「私(の会社)は儲けることだけを目的にして仕事をしています」と言う人(会社)はいないでしょうが、それが行動のところどころに見え隠れした場合、「他に代わる人(会社)があったらそちらを選びたい」と誰もが思うことでしょう。特に現在のように同業者の数が多く、完全な買い手市場の場合には、「その会社(人)から買う“必然性”」がなければ多くの売り手の中から選ばれることはありませんし、少なくとも中長期にわたって取引や購買が継続することはないでしょう。ではこの、

「その会社(人)から買う“必然性”」はどのようにして生み出されるのか

次に考えてみます。

「何をつき詰め、徹底するのか」=“理念”

多くの売り手の中から「あなた(の会社)から買う“必然性”」を納得してもらうためには、「他の売り手にはない価値の提供」(いわゆる差別化)が前提となります。すべての面で他の売り手に勝り、優位に立つなどということはありえないことですので、この「他の売り手にはない価値の提供」を実現するためには、“何か1つに焦点を絞って”“それをつき詰め、徹底すること”が必要です。「お客様に対するおもてなしの心」「ずば抜けた品質の高さ」「まだ世の中にない新しい技術」「価格の安さ」「オリジナリティーやユニークさを重視した商品開発」…など様々なものが考えられます。
そして、

「何に焦点を絞って、つき詰め、徹底したいのか?」を自問自答した結果こそ、「あなたの会社の“理念”」にほかなりません。

それをつき詰め、徹底し続ければ必ず「他の売り手にはない価値」が生まれてきます。中途半端なことはしてはいけません。<はじめに>で述べた「悪い印象を持たれる会社」は要は中途半端なことをしているわけです。例えば、「価格の安さ」を徹底追求していれば、アフターフォローやサービスが抑えられていても理解を得ることができる場合はあります。「価格もほどほど、アフターフォローやサービスもほどほど」では他の売り手に代わられてしまうのです。

“理念”はいつ生まれるのか?

ではこの“理念”はいつ生まれるのでしょうか?創業したときから明確な理念を持ち、それが現在も生きている、という会社もあるとは思いますが、多くは紆余曲折を経て事業として継続できるという見込みが立った頃に“自然に生まれる”のではないかと考えられます。事業として成り立たせるまでには様々な試行錯誤をするのがあたりまえですし、その中から創業者自身の「何に焦点を絞って、つき詰め、徹底したいのか?」ということも徐々に浮き彫りになってくるのが多くの姿ではないかと考えられるためです。
そして、この“理念”が明確に定まったら、ブレずに“会社の憲法”として徹底して追求し続けることが必要です。商品やサービスの具体的な中身を世の中の時流やニーズに合致させていくことはもちろん必要ですが、世の中の流行を後追いして自分の会社の一番大切なこの“軸”の部分をコロコロ変えてもそこにはずっと以前からそれを追求している“先人”がいます。またやがて自社の資源では対応できなくなると考えられるためです。

まとめ

現在のように完全な買い手市場の場合には、「あなた(の会社)から買う“必然性”」がなければ多くの売り手の中から選ばれることはありません。そしてその“必然性”は“何か1つに焦点を絞って”“それをつき詰め、徹底すること”を通じて生み出されるものであると考えます。そして、この、

「何に焦点を絞って、つき詰め、徹底したいのか?」を試行錯誤の中から自問自答し続けた結果の答えこそ“理念”であると考えます。

当研究所代表の私、鈴木 茂も人事企画コンサルティングの道に入門してから20年となりました。“理念を体系化することを通じて優れた企業文化の形成に貢献したい”との思いを持つまでには10年以上かかりましたが、今後もこの道を追求していく所存です。多くの人は職業人生を始めるにあたって会社に就職します。「この会社で働いてよかった」と思える優れた企業文化を持つ会社が増えることでより多くの人が人生に充実感、幸福感を感じることができると考えるためです。今後もこの事例解説を通じて少しでもみなさんのお役に立てればと考えております。引き続きよろしくお願い申し上げます。

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