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第81回  2017年2月号

〜同一労働同一賃金ガイドライン案を読む〜

読む側の関心が集中するであろうこと

昨年末、国から同一労働同一賃金ガイドライン案が発表されました。中身を見てみますと、核となる基本給、賞与の判断基準においては一貫して「○○に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない」となっています。ガイドライン案の冠は「同一労働同一賃金」となっていますが、同一労働とは判断されない場合でも相違に応じた支給を求めるのがガイドライン案の考え方である、ということができます。しかしながらこの「相違に応じた支給」について数値その他具体的な判断基準は一部の例を除いて原則示されていません。従って、読む側の関心が集中するのはこの「相違に応じた支給」の具体的な判断基準であると考えられます。この点についてのガイドライン案の考え方は「具体例として整理されていない事例については、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれる」となっています。

ガイドライン案が目指しているのは“働き方の選択”による不合理な待遇差をなくすこと

このガイドライン案と同時に「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」が発表されています。この中間報告の中に「職務分離」という言葉が出てきます。中間報告では「職務分離」を「ガイドラインをつくっても適切に運用がされず、非正規社員に対して、形式的に違った職務を割り当てる形でガイドラインを形式的に守ろうとする」こと、と定義しています。前述のとおり、ガイドラインを読む側としては「相違に応じた支給」の具体的な判断基準が最も知りたいことであると考えられます。「どのような場合に」「どの程度の差であれば許されるのか?」が明確になれば、その判断基準に合わせて非正規社員の職務を整理し、待遇は従来のまま、とすることも可能となるからです。しかし、中間報告はこのことを明確に否定的にとらえています。

もっともガイドライン案にせよ、中間報告にせよ、仕事内容など合理的な理由に基づいて相対的に低い賃金水準を設定することや、短期の雇用調整が行いやすい労働契約を締結すること自体を否定してはいません。会社には様々な仕事があります。また、中核人材として長期にわたって雇用したい人もあれば、必要なときに必要な時間だけ雇用したいという人(仕事)もあります。

ガイドライン案はこのことを前提としたうえで、どの仕事、雇用を選択してもきちんと説明ができないような待遇差を設けることはあってはならない、と言っている

と受け止めるべきでしょう。

このように考えますと、今後は次のとおり発想の起点を変えた労務管理、人事制度の構築が必要となってくるものと考えられます。

[従来]●「低い待遇で使えるから」「雇用調整がしやすいから」という発想で非正規雇用として雇い入れる ●非正規雇用者と正社員との仕事内容の違いは実態としてあまりないか、あるとしても待遇の違いを根拠づける“アリバイ”のようなもの
[今後]●自社にとってどのような人材区分(仕事内容、労働時間、雇用期間)が必要なのかを発想の起点にする ●どの人材区分、すなわち働き方を選択しても従業員に対して待遇決定の考え方を説明できる人事制度を構築する
従来の雇用形態(正規or非正規)起点の人事制度から、人材区分、働き方起点の人事制度への転換が必要

このことはガイドライン案の冒頭(目的)にも次のとおり明確に記述されています。

「我が国の場合、基本給をはじめ、賃金制度の決まり方が様々な要素が組み合わされている場合も多いため、同一労働同一賃金の実現に向けて、まずは、各企業において、職務や能力等の明確化とその職務や能力等と賃金等の待遇との関係を含めた処遇体系全体を労使の話し合いによって、それぞれ確認し、非正規雇用労働者を含む労使で共有することが肝要である。」

「このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から『非正規』という言葉を一掃することを目指すものである。」

まさにこの部分がガイドライン案が目指しているものと言ってよいでしょう。

この点を正しく受け止め、自社の労務管理、人事制度構築の発想の起点とすることが必要です。

従来型の働き手(仕事に没頭できる男性)が急激に減少していく中、このことなくして必要な人材を獲得し、能力を存分に発揮してもらうことはもはや困難な時代になっているのです。

注) 「同一労働同一賃金ガイドライン案」 「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の全文は首相官邸または厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。

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